前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『ミッドサマー』老眼で恐怖が矮小化されて申し訳なかった話(演出のネタバレはあり)

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私、超がつくド近眼でして、コンタクト外すと隣に座ってる人間の顔もヤバいほどです。なのでめっちゃ度の強いコンタクトレンズをしてるのですが、ここ2年ほどは少し度を弱めてさらにレンズの種類を変えました。

なぜって、老眼ですよ、老眼。

こちとら五十路にジリジリにじりよってるところなんですよ。19年のラグビーワールドカップ直後あたりから急に、手元やパソコンの画面が見えづらくなりまして、遠近両用コンタクトレンズに変えました。
目のいい人が老眼になるとショックらしいですが、ド近眼からいわせてもらえば、贅沢な話です。
あのね、遠くも近くも見えないってね、焦点合わせるポイントがマジで難しい。ようするに、なんにもクリアに見えないんです。

で、遠近両用レンズのお陰でPC使うのは困らなくなったのですが、ちょっとした遠くが見えない。
一番困るのは、映画館で字幕がにじんでよく見えない。本質的ではない理由で、英語力上げないとまずいレベルになってきた。

長編デビュー作「ヘレディタリー 継承」が高い評価を集めたアリ・アスター監督の第2作。不慮の事故により家族を失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人たち5人でスウェーデンを訪れた。彼らの目的は奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」への参加だった。太陽が沈むことがないその村は、美しい花々が咲き誇り、やさしい住人たちが陽気に歌い踊る、楽園としか形容できない幸福な場のように思えた。しかし、そんな幸せな雰囲気に満ちた村に不穏な空気が漂い始め、妄想やトラウマ、不安、そして恐怖により、ダニーの心は次第にかき乱されていく。ダニー役を「ファイティング・ファミリー」のフローレンス・ピューが演じるほか、「トランスフォーマー ロストエイジ」のジャック・レイナー、「パターソン」のウィリアム・ジャクソン・ハーパー、「レヴェナント 蘇えりし者」のウィル・ポールターらが顔をそろえる。

(映画.comより)

そんなぼやけた視力でこの映画を劇場で観たときは、アリ・アスター監督の前作『ヘレディタリー 継承』*1の方がいいなあ、って思ったんです。
あとで書きますが、生理的嫌悪感は前作以上だったんですが、前作の方が不穏当な映像がちりばめられていたなーと感じまして。

でも先日CSで放送してたので、テレビで、つまり遠近両用レンズでも画面が十分クリアに見える距離で観たところ、随所に人を不安にさせる細かい演出がちりばめられてることに気づいたのですよ。

花だのなんだのを蠢かせてたり、何かわからないものが映りこんでたり、細かい壁の絵に色んな予見があったり。テレビの画面でみて、初めて気づきました。
あれは主人公の不安や精神状態を象徴していたり、物語の展開を予想させて不安を煽ったり、観客をトリップさせてるような感覚に陥らせたり等々、さまざまな思惑があって散りばめられているのですが、初見の時には老眼のせいだと思って、私、完全にスルー。せっかくの映像から、恐怖が私に届いていない。
その代わり、明るい場面がほとんどを占める映画なのにところどころちゃんと見えなくて、「ああ、老眼が進んだのか……」という、アリ・アスター監督がこれっぽっちも意図してない恐怖には駆られてましたが。

思えば前作を見た時は、まだ老眼ほとんど出てなかったわ。
真面目な話、字幕や演出をちゃんと視認するためには、もう遠近両用レンズはやめて、手元を見るときは老眼鏡使うしかないかもしれない。
そういう反省する心持で観ていたせいか、2度目の鑑賞でもどうにも恐怖心が湧いてこず。

本来ならですね、この映画は私にとって生理的に嫌いなタイプの集団を扱っているので、結構怖いはずなんですよ。
私、同じ格好の集団が、同じような行動をしているのが苦手なんです。なんといいますか、一瞬ぞわッとするんですよ。

同じ格好の集団とはいっても、スポーツのユニフォームとかは平気です。ラグビーみたいに15人とか、野球みたいに9人とか、数が知れてるじゃないですか。動きは個々で別ですし。
これが、制服や同じような恰好をして、一斉に同じような動きをすると、ぞわぞわっとするというか、変な圧を感じるというか。
えーっと、軍服は好きだけど、軍事パレードは生理的に気持ちが悪い、と言えばいいでしょうか。

……その、ようは、あのー、誤解を恐れずに言えばですね。
同じ格好の集団が一斉に同じ行動をするって、虫の大群みたいに見えません?
虫自体は別に嫌いじゃないんですよ。キレイな虫はもちろん、なんならゴキブリだって、単体なら別に怖くもなんともありません。
でも、それが集団になると、生理的にぞわぞわっとして、ムリ。

しかも虫の大群って、個々の意思じゃなくて団としてひとつの意思を持ってる感があるじゃないですか。哺乳類や鳥類、爬虫類や両生類と比べても、格段に個体毎の意識の差を、個性ってヤツを感じない。

だから、この映画であのコロニーの住民が、その祝祭が、行為そのもの以上にただたただ気持ち悪い。似たような格好、似たような動き、相手に同調した泣き声、叫び声。
こういう集団は、暗いよりも明るくてよく見える方が気持ち悪さを出しますね。
闇夜に松明持って立ってる方がまだマシ。

そういう生理的嫌悪感は今回もしっかり感じはしました。
が、一方で、いちいち「ここでこんなことが! あっ、ここもこんなことに! ああっ、この顔ってあいつだったのか!(この顔を見逃していた自分に蹴りを入れたい)」と、過去の自分にツッコんでいたので、結局のところ、恐怖の対象はより一層、自分の老眼度合に向かう羽目に
ああくそ、もう一度真っ新な気持ちに戻って観ることはできないものか。

アリよ、2021年の今、君は35歳だね。ならばあと十数年もすればわかるだろう。
その時にこの映画を見直して、思うところがあれば是非、今度は中高年(の目)にも優しい映画を作ってくれ。

 

*1:アリ・アスター監督の長編処女作で、トラウマ観客量産映画。悪魔だカルトだで歪みまくったファミリー・ホラーで家族愛は強しと思ってる人ほど絶望する。そして何より主演のトニ・コレットの顔が怖すぎる