前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『デイブレイカー』イーサン・ホークにハズレなしの阿鼻叫喚地獄絵図(ネタバレあり)

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すっかりサム・ニールモードになっているので、久しぶりに『デイブレイカー』。

これを映画館で観たのは、広島に勤務していた頃。元々は『マチェーテ*1を観に行ったんですよ。
チケット売り場で座席を指定しようとしたら、売り場の方から「ここと、ここ以外は、全部空いてます」と営業スマイルで言われた記憶は、今でも鮮明です。
そして『マチェーテ』を大満足で観終わった後、売店でパンフレットを買おうとしたら「この映画はパンフレットお作りしてないんですよ」と無常に言われ、物悲しい気分になってしまい、未練がましくパンフレットの見本を眺めていたところ……。

「サ、サム・ニールがいる!?」

と、この映画を発見。
売店から即行で踵を返しチケット売り場に戻ったら、同じ方が売り場にいて「こちらも、ほとんど空いてます……ふっ」と、笑いをかみ殺しながらチケットを売ってくれました。甘酸っぱい思い出です。

そういう余計なことも思い出しながらの『デイブレイカー』鑑賞です。

永遠の命を持つバンパイアによって世界が支配されている2019年。人類は絶滅寸前で、バンパイアに必要不可欠な人間の血液も底を突きかけていた。血液の代用を探すバンパイアの研究者エドは、人類の生き残りオードリーと出会い、バンパイアと人類の双方を救済できる驚くべき方法を知るが、バンパイアと人類は最終戦争に突入してしまう。監督は「アンデッド」(03)で知られる双子の兄弟ピーター&マイケル・スピエリッグ。出演はイーサン・ホークウィレム・デフォーサム・ニール

2010年製作/98分/R15+/オーストラリア・アメリカ合作
原題:Daybreakers
配給:ブロードメディア・スタジオ
(映画.comより)

これ、確かパンフレットにもほぼ同じことを書いてあったんですが(確認しろって)、人血をワイングラスに入れて飲むサム・ニールが、実に様になっていて、たまらんのですよ。
どういうわけか、サム・ニールが演じてそうで演じてなかったヴァンパイア。
以前、『ブレイド』でウド・キアがヴァンパイア役*2をしているのを見て、サム・ニールも似合いそうだなあ、と思ったものでしたが、この映画で夢が叶ったように思いました。

ついでに言えば、ここまで真正面から悪役をするのも、あまり無いんですよね。
と、書いたところで、私がいつも、サム・ニールの役柄を「悪役」と認識してないだけなんじゃないかと気づいてしまったので、この話はここまで(無責任)。

ということで、サム・ニール目当ての映画なんですが、主演はイーサン・ホークウィレム・デフォーも出てるので、この三人が映画を一気に格上げしています。あらすじだけ読むとB級っぽく思えるかもしれませんが、Aマイナスくらいあげてください。

いや本当に、イーサン・ホークにハズレなし、です。
サム・ニールは時々微妙なものに出るので困るんですが、イーサン・ホークは絶対にハズさない。
脚本見る目がいいんでしょうね。ウィレム・デフォーが、この映画に出たのは「イーサン・ホークが出るから」と言ってました。業界人すら信頼する目利き。
これ観ようかなー、どうしようかなー、と迷った時にイーサン・ホークが出てるなら、どんなジャンルの映画であっても、少なくとも「死ぬほどつまらんかった」とはなりません(同じことを言う人は多い)。

それはさておき。
ヴァンパイアが食物連鎖の頂点に立って、調子こいて人間の血を呑んでたら、人間が少なくなって食糧危機が訪れた、という、よく考えたら「そりゃそうだよな」となる話です。
自然界を考えたらわかる話なんですが、捕食動物ってのは、獲物より数が多くはならないんですよね。そりゃそうですよ、エサが足りなくなっちゃうんだから。

現実世界では、世界の人口は2020年の終わりに78億人になったそうです。私が子供のころは45億人って学校で習いましたが、あれからすごい勢いで増えました。
これを踏まえてですよ。映画の設定のように、人口における人類の割合が5%切るってことになると、ヴァンパイア74億人に対して人類4億人になります(仕事柄、すぐ計算する)。
つまり、1人の血で18.5人養わなきゃいけないわけです。
日本の年金制度が安泰に見えてしまいます(そこは正気を保て)。

よく考えたら、ヴァンパイアというのは血を飲まないと生きていけないって時点で、雑食の人類より生存しにくいんですよね。山ほどヴァンパイアに転化する前に、そこに気づいた奴はいなかったんでしょうか。
やはり、こういう面倒くさい生き物は(死んでるけど)、希少であることが自然な気がします。
そういうヴァンパイアという生き物(死んでるってば)の特性を、ここまで現実的に詰めた話ってのはあまりなく、そのあたりがイーサン・ホークのお眼鏡にかなったのかもしれません。

この大前提に加えて、クライマックスで、ヴァンパイアから人間に戻った人間の血をヴァンパイアが飲むと、そのヴァンパイアも人間に戻ってしまう(書いてみるとややこしいな)ということがわかり、ここからが怒涛の阿鼻叫喚地獄絵図
なにせ、食糧危機で飢えてるヴァンパイアだらけです。元ヴァンパイアの血を飲んだヴァンパイアが人間に戻ってしまい、今度はそいつに他のヴァンパイアが咬みつき、そのヴァンパイアが人間に戻ったら、また他のヴァンパイアが……。
捕食者と被食者が、すごいスピードで変わっていくので、もう滅茶苦茶。

全体的に派手な殺戮シーンは少ないのにR15+指定、つまり15歳未満お断り映画になっているのは、この場面のせいじゃないかと。私ですら、映画館で観た時は唖然としましたから。
これの前にみたマチェーテ』は18禁ですが、あのバイオレンス描写は笑えますからね。もちろん、腸をロープがわりにして窓から逃げる、なんてシーンを笑うには、観る側がバイオレンス描写に慣れていて、かつ映画のコンセプトを承知しているという前提があるとはいえ。
私には子供も甥姪もいないので縁のない悩みですが、同じ趣味でお子さんがいらっしゃる方は頭が痛いところなんでしょうね(あ、同僚が『ゲーム・オブ・スローンズ』で困ってたな)。

ということで、広島の映画館では私以外に1人しか観客がいなかった映画ですが、私が好む映画にしては間違いなく良質です。
私のことは信じなくていいので、どうかイーサン・ホークを信じてください。

eiga.com

*1:脇役悪役の常連ダニー・トレホ主演のアクション映画。C級D級の映画をロバート・ロドリゲスというA級監督(……か?)が作るとこうなるという例。アクションはキレッキレで、アメリカの移民問題を背景にしていてメッセージ性もあるが、安易に人に勧められない内容なのがツライ。

*2:人間とヴァンパイアを親に持つヴァンパイアハンターが、ヴァンパイアを刀で狩りまくる爽快な映画。ウド・キアは純血ヴァンパイアの長老役。実にエレガント。