前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ミシェル姐さんについていく所存です(ネタバレなし)

ミシェル姐さん、アカデミー賞受賞、おめでとおおおおおおございますうううう!!(全力で最敬礼)
この!
喜びを!
どう表現すればいいのかさっぱりわかりません!
とにかくおめでとうございますうううう!!!!

カンフーとマルチバース(並行宇宙)の要素を掛け合わせ、生活に追われるごく普通の中年女性が、マルチバースを行き来し、カンフーマスターとなって世界を救うことになる姿を描いた異色アクションエンタテインメント。奇想天外な設定で話題を呼んだ「スイス・アーミー・マン」の監督コンビのダニエルズ(ダニエル・クワンダニエル・シャイナート)が手がけた。

経営するコインランドリーは破産寸前で、ボケているのに頑固な父親と、いつまでも反抗期が終わらない娘、優しいだけで頼りにならない夫に囲まれ、頭の痛い問題だらけのエヴリン。いっぱいっぱいの日々を送る彼女の前に、突如として「別の宇宙(ユニバース)から来た」という夫のウェイモンドが現れる。混乱するエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚きの使命を背負わせるウェイモンド。そんな“別の宇宙の夫”に言われるがまま、ワケも分からずマルチバース(並行世界)に飛び込んだ彼女は、カンフーマスターばりの身体能力を手に入れ、全人類の命運をかけた戦いに身を投じることになる。

エヴリン役は「シャン・チー テン・リングスの伝説」「グリーン・デスティニー」で知られるミシェル・ヨー。1980年代に子役として「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」「グーニーズ」などに出演して人気を博し、本作で20年ぶりにハリウッドの劇場公開映画に復帰を果たしたキー・ホイ・クァンが、夫のウェイモンドを演じて話題に。悪役ディアドラ役は「ハロウィン」シリーズのジェイミー・リー・カーティスが務めた。第95回アカデミー賞では同年度最多の10部門11ノミネートを果たし、作品、監督、脚本、主演女優、助演男優、助演女優、編集の7部門を受賞した。

2022年製作/139分/G/アメリ
原題:Everything Everywhere All at Once
配給:ギャガ

映画.comより

ミシェル・ヨー姐さんの受賞は歴史ですよ、歴史。
アジア系女優による主演女優賞だってのはもちろんですが、アクション女優としてキャリアを作ってきた姐さんが主演女優賞をとったというのも、快挙なんじゃないでしょうか。
これまで主演女優賞をとった俳優でアクションをする人はたくさんいますが、私の知る限り、アクションする俳優なんであって、アクション俳優かというと違う気がします。

そもそもミシェル姐さんがアクション女優を目指した理由が、「アクションやれば役がもらえるから」。
あきらかに前世は戦士ですよね、姐さんは。
80年代にアクションそのものを目指した女優なんて、世界中見渡しても志緒美悦子しか思いつかない。ああ、悦ちゃん、なんで引退したんだ。
そしてそんな姐さんのアクションは、なんちゃってアクションでも殺陣の振り付けでそれらしくしたものでもなんでもない、ガチのアクションなんですよ。

実はいま姐さんの若かりし頃(そして真田広之の若かりし頃)の映画『皇家戦士』*1を観ながらこれを書いてるんですが、姐さんのアクション、スピードがおかしい。
速い、速すぎて老眼じゃ追えない(老眼の上に動体視力もない)。こ、こんなに速かったっけ……。

ま、考えればそれも当たり前で、当時の香港映画界は、ジャッキー・チェンだのサモ・ハン・キンポーだのアクション全盛期。そんな中で、姐さん主演のアクション映画がシリーズで作られてるくらいだから、そりゃアクションで彼らに見劣りするわけがない。
乱暴に言ってしまえば、姐さんのキャリアの積み方はジャッキー・チェンと同じなわけですよ。

そう思うと、『エブエブ』の主人公は最初ジャッキー・チェンを想定されていたって話、わからんでもない。あのハチャメチャだけどとにかくパワフルだった時代の香港映画は、『エブエブ』のカオスっぷりに通じるものがあるし、もしジャッキーが出ていたとしても、面白い映画にはなったと気はする。
でもね、この映画の主人公は、ミシェル姐さんでなきゃダメだと思う。

姐さんがハリウッドで成功している理由の一つは、アクションと高い演技力、そして佇まいから伝わってくる品格だってことは間違いない。
しかもあれはアジア系ならではといえる類の品格で、静かで柔らかくてじんわりと温かみまで伝わってくる。同じ主演女優賞ノミネートの、品格化け物(褒めてます)ケイト・ブランシェットと比べてみてください。どちらも品格があけど種類が違うでしょ。
この手の品格って白人にはないもだから、ハリウッドで活躍しているアジア系女優にはこの独特の品のある人が多い気がする。

その中で、姐さんと他を分けるのは、魂の底の底から湧き上がる途轍もない力強さだと思うのです。
そう。
「アクションやれば役がもらえる」とガチでアクションを身につけたような戦士のハートこそ、姐さんの魅力の根源です。

『エブエブ』は自分探しの物語。究極の自己肯定感を獲得する物語なんですね。でも、後ろ向きだった人間が自己肯定感を得るには、見たくもない自分と向き合う苦しくてツラい道のりが必要です。
主人公のエヴリンは、過去を振り返るだけでなく、娘との関係性にも、マルチバースを通していくつもの自分とも対峙するはめになる。自分と違うステキ(に見える)な世界の自分になりたいと思ったり、自暴自棄になったりもする。
それを乗り越えて自分自身を改めて獲得する主人公エヴリンは、やっぱりミシェル姐さんのように芯から強さをもつ、しかも温かい強さをもつ女性が演じてこそ、説得力が増す。
クライマックス、エヴリンのパワフルさに泣きまくった私が太鼓判を押す。

え?
自分は戦士じゃないし、そんな強さはないから自己肯定感なんて獲得できないのね、って?
いやいや、そんなあなたはエヴリンの娘、ジョイの気持ちになってエヴリンと対峙してみよう。
エブリンから、ミシェル姐さんから、強さと愛を受け取ろう。
で、いっぱい泣いたら、自分を卑下する気持なんかなくなるから。
卑下しそうになったら、多分ミシェル姐さんがキレイなキックをかましてくれ......じゃない、強く優しく抱きしめてくれるに違いないから。
そして顔を上げて自分自身と対峙しよう。

何がなんだか自分でもわからなくなってきましたが、とにかく!
もうミシェル姐さんを見れば条件反射で涙ぐんでしまうほど、この映画のミシェル姐さんは究極の高みに到達しました。
アカデミー賞受賞は必然です。
姐さん、死ぬまでついていきます。

Podcastでは考えるな、感じろ!としか言いようのないこの映画について、語ってます。

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*1:80年代の香港映画。香港警察のミシェル姐さんと、日本人で元刑事の真田広之が悪い奴と闘う。ゆるいコメディ演出と慈悲ゼロの殺戮、若くて発展途上の演技とキレッキレのアクションが同居していて、無茶苦茶だがまったく飽きない。さすが80年代。