前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『RRR』インド映画について一切語らず錯乱している話(ネタバレなし)

レ、レイ・スティーヴンソン、カッコいいわーーー!!!
インド総督の!
軍服が!
この上なく似合ってる!
オファーされたのかオーディションか知りませんが、彼をキャスティングしたラージャマウリ監督、愛してるわ!

今日も映画そのものからズレた入り方をしている前世戦士のしのぶです。だって感激したんだもーん。
いつもの通り、『RRR』がどれだけすごくて面白いか、という話を読みたい方は、ぜひよそ様のブログで仕入れてきて下さいね。

日本でも大きな話題を集め、ロングランヒットとなった「バーフバリ」シリーズのS・S・ラージャマウリ監督が、英国植民地時代の激動のインドを舞台に、2人の男の友情と使命がぶつかり合う様を豪快に描くアクションエンタテインメント。

1920年、英国植民地時代のインド。英国軍にさらわれた幼い少女を救うため立ち上がったビームと、大義のため英国政府の警察となったラーマ。それぞれに熱い思いを胸に秘めた2人は敵対する立場にあったが、互いの素性を知らずに、運命に導かれるように出会い、無二の親友となる。しかし、ある事件をきっかけに、2人は友情か使命かの選択を迫られることになる。

「バードシャー テルグの皇帝」のN・T・ラーマ・ラオ・Jr.がビーム、ラージャマウリ監督の「マガディーラ 勇者転生」にも主演したラーム・チャランがラーマを演じた。タイトルの「RRR」(読み:アール・アール・アール)は、「Rise(蜂起)」「Roar(咆哮)」「Revolt(反乱)」の頭文字に由来する。第95回アカデミー賞ではインド映画史上初となる歌曲賞にノミネートされた。

2022年製作/179分/G/インド
原題:RRR
配給:ツイン
(映画.comより)

ということで。
レイ・スティーヴンソンですよ!
インド映画でレイ・スティーヴンソンがインド総督役で悪役ですよ!

嬉しくて踊れるものならナートゥを踊っちゃうよ、私!

私がレイ・スティーヴンソンを知ったのは、『キング・アーサー*1のダゴネット役でした。正直言って、あの映画で覚えているのは彼だけと言っても過言……だけど、一番燃えたのはレイでした。
凍った湖での決死のシーンがああ!
おかげで戦士の心が大騒ぎして一目ぼれですよ!

なもんだから、次の出演作『パニッシャー:ウォーゾーン』*2レイ・スティーヴンソン目当てで観に行きました。この映画がもう笑うしかないほど売れなかったんですが、私は大好きなんですよ!
その後は単独主演作、というものにはなかなかお目にかかれなかったこともあり、力入れて追いかけることはなくなりました。
それなのになぜかこの男、私の観る映画観るドラマ、あちこちに現れて喜ばせてくれるんですよ。
なんという相性の良さ!
もはや運命!

とにかくレイ・スティーヴンソンの何がいいって、何を着せてもキマる、それこそスーツから軍服、騎士の恰好まで何でもビシッと着こなしてしまう見事な体格ですよ!
背の高さに加え、骨格がいいのか(特に肩から背中)体の線がはっきりしていて、年取って太ってしまってからも崩れた印象がない奇跡の人。
しかもそんな素晴らしい体の上に乗っているのは、眼光鋭い三白眼付きの端正な顔!IMDbでの彼の紹介文にある"Tall, dark, but somewhat gentle-looking actor"*3っていう表現が、実にぴったりハマります。誰だ、これ書いた人。素晴らしい。

そんなレイの!
インド総督の!
軍服姿が!
似合いすぎる!
ハマり過ぎる!
もうこれから貴方のことを「総督!」って呼んじゃうよ!

しかもです、『RRR』でのレイの素晴らしさはビジュアルだけではないんです。
いくらなんでも恰幅のよくなった最近のレイが、あの激しいアクションのあるインド映画でアクションはしないよね〜、と、思っていたらばですよ?
ここでですか!?というタイミングでシビレる銃さばきを見せてくれるんです!
これまたもう実にカッコよくて!
映画館で声出ちゃったよ!
くぅうううう!

アジア映画に出てきた西洋人が、こんなにシビれる姿だったことって滅多にないんじゃないでしょうか(私の観ている絶対量が少ないので、偏見かもしれない)。
結構微妙な役者が出てたりしていて、とにかく西洋人を持ってきましたってだけで、興ざめすることもあります。
もちろん、自国の役者と違って思い通りにキャスティングするにはいろんなハードルがあるってことはわかってます。金とか偏見とか金とか金とか。仕方ない。

でも『RRR』は違います。
本気で憎々しくも威風堂々たる役者、しかも映画の荒唐無稽なアクションとビジュアルに負けない役者として、レイ・スティーヴンソンを選んだその慧眼たるや!
ラージャマウリ監督はハリウッド映画をめちゃくちゃ見ている人なので、もちろんレイのことは知っていたはず。
『ハーフバリ』で世界規模の実績を積んだお陰で、(多分)金も積めるようになったラージャマウリ監督、キャスティング決まって嬉しかったに違いない。
もちろん出演を決めたレイ自身も、素晴らしい慧眼だぜ!

ということで、『RRR』はアクション映画としても娯楽映画としてもインド映画としても、そしてレイ・スティーヴンソン映画としてもトップクラスの映画です。

こんなところでも出会えるなんて、やっぱり貴方は私の運命の人ね!

 

……ブログは錯乱してますが、↑を書いて少々冷えた頭で録ったPodcastでは『RRR』について比較的まともなことを喋っています。
お口直しが必要な方はぜひ。

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*1:そんなに売れなかったらしい2004年のアーサー王伝説映画。でも監督はみんな大好きアントワーン・フークワだし、出てる役者も渋いところを突いてくる人ばかりだし、好きな人はツボに入りまくるはず。ちなみに私がマッツ・ミケルセンを知ったのもこの映画。

*2:マーベルのキャラクター、パニッシャーの3回目の映画化。すごくカッコよかったのに、なんで売れなかったのか、本気で心底全然全くわからない。ちなみに1回目の映画化では主演はドルフ・ラングレン、2回目の映画化ではこの人が主演。

*3:Ray Stevenson - IMDb

『ハドソン・ホーク』ブルース・ウィリスが作りたかったんだからいいじゃないという話(ネタバレなし)

先日、われらがブルース・ウィリスについて、とても悲しいニュースがありました。昨年、失語症で俳優引退の時もショックでしたが、その後症状が進んで前頭側頭型認知症との診断が下されたとのこと。
認知症は、いろんなことが失われてしまう病気です。ブルースのように努力を重ね夢をかなえた人が、その夢さえも忘れてしまいます。本当に悲しい病だと思います。
でもね。ブルースを愛する世界中のファンは彼を忘れない。
ブルース本人が忘れてしまった分まで、ファンは彼の作品を観続けて愛し続けるはずです。

とはいえ、ブルースは山ほど映画に出ているので、その分、駄作も多い人なんですね。失語症の症状が出始めたんであろう最近を除いても、厳しめに見れば打率5割くらいが妥当じゃないかと思います。
まあそんな駄作を微笑ましく観るのもブルース鑑賞の醍醐味です。個人的には、ブルース好きの人って、滅茶苦茶ストライクゾーン広い人が多い気がしてます。

……でも、そんなファンですら無かっことにしているのがこの映画『ハドソン・ホーク』。ブルースの駄作の中でも、ずば抜けて駄作の呼び声高い作品です。ちなみに私はこの映画で、ラジー賞*1を知りました。

ダ・ビンチの残した謎の純金製造マシーンを追って、怪盗ハドソン・ホークと世界制覇を企む夫婦、またその他の人間が入り乱れて繰り広げられるアクション・アドベンチャー。監督は「ヘザース ベロニカの熱い日」のマイケル・レーマン、製作は「プレデター2」のジョエル・シルヴァー、脚本は「ダイ・ハード2」のスティーブン・E・デスーザと「ヘザース ベロニカの熱い日」のダニエル・ウォーターズが共同で執筆。撮影はダンテ・スピノッティ、音楽を「ダイ・ハード」のマイケル・ケイメンと「リトル・マーメイド」のロバート・クラフトが担当。出演はブルース・ウィリス、アンディ・マクドウェル。

1991年製作/100分/アメリ
原題:Hudoson Hawk
配給:コロンビア・トライスター映画

映画.comより

でもね。
私、ブルース作品の中でこの『ハドソン・ホーク』が1番好きなんです。
ええもう、公開当時、映画館で観たその時から。

あ、待って。
そんな、さげすむような眼で見ないで皆さん!
いまから理由を書くから!
それ読んでも納得いかなきゃ、吐き捨てていいですら!

といっても理由はひとつでね。
もう単純に、ブルースが楽しそう。
ただそれに尽きるのです。

はっきり言って、映画は滅茶苦茶です。
ストーリーも演出も滅茶苦茶です。
コメディ映画ですが、ギャグは滑りまくるし、テンポもヒドイ。編集もさぞかし大変だったことでしょう。

でもこの映画を観ていると、ブルースがどんなものが好きなのか、それがすごく伝わってくるんですよ。
なぜかと言えば、この映画、もともとブルースが無名時代に友人とこんな話いいよね~と温めていた話が元になってるんですね。ブルースによるブルースのための映画。
だから演じているブルースの顔もとっても楽しそう。
……後々裏話を知りましたが、撮影中はそれはもう悲惨な現場だったらしいんで、まあおそらく、本人だけが楽しかったんだと思うけど。

ハドソン・ホーク』を観ていると、ブルースは、アメリカンニューシネマ以前の50~60年代、映画はただただ明るく楽しく呑気で小洒落ていた時代、あのころのものが好きなんだろうなと思います。

どうしても『ダイ・ハード』のイメージが強いので、タンクトップ姿が目に浮かんでしまいますが、ブルースって本来は、アクションやマッチョな役よりも、この映画のようなちょっとクラシック(古臭い)な格好の役が好きなんじゃないかなあ。
さらに言えば、辛気臭い話より、コメディ映画の方がより好きなんじゃないかなあ。
ダイ・ハード』もブルースと脚本家が意気投合して、あの笑えるアクション映画に昇華したらしいですし、楽しいものが大好きな人なんですよ、きっと。

そんなブルースがずーっとやりたかったことを、『ダイ・ハード』で得た名声とコネと金を使って「うぇ~~い!」と勢いで実現したのが『ハドソン・ホーク』なんです。
だから、駄作とか言って黒歴史にせず、『ハドソン・ホーク』をみてブルースを堪能しましょうよ。

このブログで何度も書いてますが、製作者のやりたいことがにじみ出てる映画なら、もうそれで花丸満点の映画じゃあないですか。
ファンにも批評家にも製作に関わった全ての人にとっても悪夢のような映画ではありますが、少なくともブルースにとっては若き日の夢が結実した映画です。
今回改めて観ましたが、やっぱり断言できます。

ブルース・ウィリスは『ハドソン・ホーク』が1番なんだよ!

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*1:正式にはゴールデン・ラズベリー賞アカデミー賞とそっくりだが、中身は真逆で、その年のダメダメ映画を称える?映画賞。もう40年くらい続いている。もちろんジョークの映画賞だが受賞した側はそれなりに不愉快らしく、過去授賞式に出てトロフィーを受けとった強者はわずか4名。『ハドソン・ホーク』は最低作品賞と最低監督賞を受賞しましたが、雇われ監督だったマイケル・レーマンはトバッチリだと思うのです。可哀そう。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』3Dテレビに踊ったあの日を思い出す(ネタバレなし)

アバター』と聞くたび思い出す。
あれは蜃気楼よりも儚く消えた、家電業界の輝かしい未来。
その名を「3Dテレビ」という。

はい。私、前職では家電メーカーに勤めてました。

ジェームズ・キャメロン監督が革新的な3D映像を生み出し、全世界興行収入歴代1位の大ヒット作となった「アバター」の約13年ぶりとなる続編。前作から約10年が経過した世界で、新たな物語が紡がれる。

地球からはるか彼方の神秘の星パンドラ。元海兵隊員のジェイクはパンドラの一員となり、先住民ナヴィの女性ネイティリと結ばれた。2人は家族を築き、子どもたちと平和に暮らしていたが、再び人類がパンドラに現れたことで、その生活は一変する。神聖な森を追われたジェイクとその一家は、未知なる海の部族のもとへ身を寄せることになる。しかし、その美しい海辺の楽園にも侵略の手が迫っていた。

ジェイク役のサム・ワーシントン、ネイティリ役のゾーイ・サルダナらおなじみのキャストが続投し、前作でグレイス・オーガスティン博士役を務めたシガニー・ウィーバーが、今作ではジェイクの養子キリ役をモーションキャプチャーによって演じている。

2022年製作/192分/G/アメリ
原題:Avatar: The Way of Water
配給:ディズニー

前作を遥かに超えるキャメロン渾身の『アバター:WoW』*1なので、敬意を表してIMAX3Dを観てきました。
正直に言えば、もしこの映画を2Dやテレビで観ていたら、多分私は飽きて寝てます

なぜかといえば、映画の半分はパンドラの自然やナヴィたちの生活を延々映しているだけだからです。だから3時間超えの尺になったのか。
この『アバター:WoW』、ほぼドキュメンタリー映画です。パンドラ版の『プラネットアース』か『ホットスポット 最後の楽園です。*2
物語部分はシンプルでどっかでみたようなド定番なんで、この大自然堪能シーンをもっとカットすれば、多分2時間の尺に収まるんじゃないかと思います。

でもなー、その2時間の尺におさまった『アバター:WoW』なんて、ちっとも面白くないだろうなと思います。ついでに言えば、2Dで観ても今一つだと思います。
だって基本のストーリー以上に、パンドラの映像含めて一つの作品になっているから。とにかく3D映像のレベルが前作と段違い。
完全に映画の中に入り込んだような感覚に加え、動物や水はその質感まで感じるような映像で、それに目を奪われていたら3時間なんかあっという間ですよ。物語自体はシンプルで、ちょいとばかりいつかどこかで何度も見たような定番の展開ですからね(くどい)、主役は映像なんですよ。

 

しかし、つくづく思い知りました。
こんな映像を家庭用テレビごときで再現しようなんて、おこがましい話なんですよ。
なにせ、キャメロンは『アバター』に24億ドル、WoWには40億ドル、日本円でいまのレートだと500億を軽く超える製作費をつぎ込んでるんですよ。
そんなもんを、いかに高くても数十万で変える程度のテレビで再現しようだなんて、誰が思いついたんだよ、責任者出て来いよ。

前作『アバター』後に、家電メーカーは「これからは3Dの時代だ!」と、鼻息荒く3Dテレビを作りまくったものでした。
当時はまだテレビは家電の主役の座にいたのものの、そろそろ機能は出尽くした感がありました。そんなところに現れた3Dです。大昔の「飛び出す映画」とは格が違います。これはいける!と勘違いしたのも仕方ありません。

そして、私の会社は……もとい、家電業界は3Dテレビに踊りに踊ったわけですよ。3Dを家庭の標準にしようとして......。
ああ色々やったなあ。
あんなキャンペーン、こんなキャンペーン。
体感コーナーとか頑張って作ってたよねー……。
でも売れてたのは、ほんの数年、いや、ぶっちゃけ1~2年のこと。
結局テレビ全体の販売をけん引するほどにはならなくて、10年もせずにフェードアウトしたのです。

今でも思う。
キャメロンが『アバター』を作りさえしなければ、あの会社は3Dテレビに走って迷走することはなかったんじゃないかって。
って、ああ、もうあの会社辞めて半年以上経ったってのに、まだ思い出すとブルーな気分に....。

アバター』好きです。『アバター:WoW』も実によかった。
でもね、観ればどうしても思い出してしまう3Dテレビ。
WoWが公開された今このご時世、いったいどこのご家庭であの鬱陶しい専用眼鏡をかけて3Dテレビを観ているというだろう
もし観てるよという人がいたら、元メーカーとして感謝した方がいいのかどうなのか、なんだか複雑な気分です。

ちなみに、私は3Dテレビ、買ってません。

 

2023/01/18追記

中学時代の担任が「自宅で『アバター』を3D眼鏡かけて観てます」とSNSに投稿していました。ますますさ微妙な気分です。


じゃじゃーん!ブログに書ききれなかったことををつぶやくPodcastを始めてみました。
続けられるかどうか不明ですが、とりあえずやってみよー!の精神です。

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*1:あちこちの記事に出てくる「WoW」ってなんのこっちゃと思っていたんですが、「Way of Water」の略なんですね。私以外にも気づいていない人はいるんだろうか。

*2:プラネットアース』はBBCが、『ホットスポット 最後の楽園』はNHKが作った大自然ドキュメンタリー。実在するのにファンタジーにしか思えない自然が観られる

『ガンズ・アキンボ』トランクス姿を見て汚部屋事件を思い出し言い訳したくなる話(ネタバレなし)

この映画を観て真っ先に思ったことは、昨年、外出先でぶっ倒れて救急搬送された時のことでした

スイス・アーミー・マン」「ハリー・ポッター」のダニエル・ラドクリフが主演を務め、両手に拳銃が固定された状態でデスゲームに参加させられた男の戦いを描いたアクション。ゲーム会社でプログラマーとして働くマイルズは、ネットの掲示板やコメント欄に過激な書き込みをして鬱憤を晴らしていた。ある日、マイルズは本物の殺し合いを生配信する闇サイト「スキズム」に攻撃的な書き込みを繰り返し、サイトを運営する闇組織のボスを怒らせてしまう。組織に襲撃され気を失ったマイルズが目を覚ますと、両手にボルトで拳銃が固定されていた。さらに元恋人も人質にとられたマイルズは、「スキズム」で最強の殺し屋ニックスに24時間以内に勝てば解放すると言い渡される。殺し屋ニックス役に「レディ・オア・ノット」のサマラ・ウィービング。監督・脚本は「デビルズ・メタル」のジェイソン・レイ・ハウデン。

2019年製作/98分/R15+/イギリス・ドイツ・ニュージーランド合作
原題:Guns Akimbo
配給:ポニーキャニオン

ガンズ・アキンボ : 作品情報 - 映画.com

映画.comの説明にある通り、主人公マイルズは、気づけば両手に拳銃をボルトで止められて殺人ゲームに放り込まれます。
ただ、その時マイルズは自宅で惰眠を貪っている最終だったので、ガウンとスリッパ(しかもトラの足)、アンダーシャツとトランクスというあられもない姿だったのですよ。
両手に拳銃が固定されているもんだから手は使えないわけで、服も着替えられず、そもそも部屋から出ることすら大変。
そして殺人鬼に追われるわ街は不審者状態で徘徊するわ元恋人の車に乗り込んで催涙スプレーは浴びせられるわ、思いつく限りのヒドイ目に遭う訳です。
これがもう可笑しくて可笑しくて、人の不幸を堂々と笑えるというフィクションの醍醐味を思う存分味わえます。

こういう恰好です
ところが後半、色々あってまともな服に着替えてからは、さほどひどい目に遭ってるように見えないんですよ。
両手に拳銃が固定されてることに変わりはないんですが、ズボンを穿いてるだけで急に普通のアクション映画に思えてくるから不思議です。
そもそも前半のトラブルは、両手に銃が固定されていること以上に、トランクス姿でうろうろしているせいで招いた不幸なんじゃないかと思う。

結局のところ、すべては見た目がちゃんとしてるかどうかにかかっている訳です。
 
いやほんと、人生何が起こるかわかりません。
わたくし、昨夏に外出先で倒れて救急搬送されたんですが、救急車の中で頭に浮かんだのは、命の心配でも、ましてや転職したばかりの仕事のことでもありません。
 
「やばい、部屋が今、史上最高に汚ねえ」
 
あれは夏の日曜日。転職してから上司やクライアントとうまくいかず、休日もやる気が入らない日が続いていた私。
もともとさしてきれい好きでもないものだから、その日もダラダラ生活していて、気づけば台所は料理の途中、洗濯物は取り込んだだけ、ゴミと書類は床にぶちまけたまま片付けもせず……はっきり言って足の踏み場もない状態
その状態でちょっとスーパーへ出かけたのが全ての間違い。
家を出てから1時間と経たずに、私は救急車に乗せられていたのでした。
 
で、搬送されて即入院だったもんですから、近所に住んでる姉に頼んで、着替えを取りに汚部屋に行ってもらうしかなかったんですね。
しかもよりによってこの姉が、家族の中で最もきれい好きの人でして。
こういう事態を想定して合鍵を渡してあるわけだし、近くに住んでて助かったと思うのも本当だし、ありがたいと思ってるのも本当ではあるのだけれども。
でもああ何でよりによって今なんだよと、自分のだらしなさを棚の一番上に上げたくなる心境を誰か分かって
 
そういう経験をした上でマイルズのトランクス姿を見ていたら、他人の不幸を笑いつつも自分の不幸も思い出して悲喜こもごも(使い方が多分違う)な気分になってきたわけです。
マイルズは途中でズボンを穿けたけど、私には入院中に片付けしてくれる緑の小人さんが来てくれたわけでもない
退院の時もきれい好きの姉は家まで付き添ってくれた。
ありがたくも、汚部屋を二度も見られるのはつらすぎる。
 
…………いや、だめだ。
言い訳させて。
言い訳させてください!
普段はそこまでひどくないの。
きれい好きではないのは確かなんだけど!
掃除を筆頭に家事全般嫌いなんだけれども!
埃は放置しててもゴミまで散らかし放題にする質ではないんだってば!
って、くそ、説得力がねえ!

『マトリックス:レザレクションズ』そして私は会社を辞めた(ネタバレあり)

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1年ぶり更新です。そして、この2022年の間に私、戦場のような会社を辞めて転職しました。
何故って貴方、21年の年末に『マトリックス:レザレクションズ』を観たからですよ。

 

1999年に公開され、革新的な映像技術とストーリーで社会現象を巻き起こしたSFアクションの金字塔「マトリックス」。2003年に公開された続編「マトリックス リローデッド」「マトリックス レボリューションズ」で3部作完結となった同シリーズの新たな物語を描く、18年ぶりとなるシリーズ新章。主人公ネオを演じるキアヌ・リーブスが過去作と変わらず同役を担当するほか、トリニティー役のキャリー=アン・モス、ナイオビ役のジェイダ・ピンケット・スミスらが続投。ネオを救世主と信じ、世界の真実を伝え、彼を導くモーフィアス役を「アクアマン」のブラックマンタ役で知られるヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、ネオの宿敵スミス役をドラマ「マインドハンター」のジョナサン・グロフが新たに演じ、ニール・パトリック・ハリスクリスティーナ・リッチらが扮する新キャラクターも登場する。シリーズの生みの親であり、過去の3作品を監督しているラナ・ウォシャウスキーがメガホンをとった。

2021年製作/148分/G/アメリ
原題:The Matrix Resurrections
配給:ワーナー・ブラザース映画

映画.comより)

マトリックス』シリーズって、1作目は大好きで大好きで、好きすぎて公式グッズの「トリニティのコート」を買っちまった(しかも普通に着ていた)くらいだったんですが、2作目3作目ってイマイチなんですよね。

私にとっての『マトリックス』は、コンピュータと人類がどうとかいう話はどうでも良くて、ネオが無意識に自分に掛けていたリミッターを外して解放される話、なんですよ。
だから、ラストでネオには1作目のように飛んで欲しかったの。キリストみたいに横たわってどっか連れていかれるんじゃなくてさ。
「映画としては面白かったけどでもなんかそうじゃない」というモヤモヤを残した、いささか微妙なシリーズの終了でした。

で、この4作目ですよ。
感動しました。私が観たかった『マトリックス』の続きはこれだったんだなと。
再び飛べなくなった=救世主として自信がなくなったネオが、飛ぼう飛ぼうモヤモヤしている話です。

そして、飛んだのは救世主だなんて誰からも思われてなかった、トリニティだったったのよおおおおおおおおおおおおおお!

ああ、救世主(=飛べる)かどうかなんて、誰かから決めてもらうもんではなくて、自分で決められることなんだと、強烈に脳天殴られた気持ちでした。
ネオがいつ飛ぶんだろうと思って観ていた、つまり当たり前のように救世主=ネオだと思っていたので、本当に感動しました。
少なくとも、あの時の私の心にはどでかい衝撃が走りました。

このブログを始めたたころから転職はぼんやり考えてました。
なにせブログにも書いてた通り、過労でメンタルやられて休職するわ、身近に突然死が出るわ、復職しても環境はアフガニスタンだわでしたから。

でもでも私、なんだかんだで創業年数3桁の国内大手企業に25年も勤めてたわけですよ。私も40代後半になり、「あと10数年我慢すれば定年だし」とか、「業績ヤバくなってきたから数年我慢すればリストラ始まって積み増し退職金がガッポリ貰えるんじゃ」とか、打算もありました。
なにより大企業という温室に4半世紀も暮らしていれば、外に出ること自体が恐ろしいわけです。そうそう簡単に決心なんかできません。

でも、2021年12月の年末にこ映画を観ちゃったら、もう居ても立っても居られなくて、正月に転職エージェントに登録、1月の連休明けには初めての面接、2月半ばに転職先が決まり、色々あって5月から新しい会社に入社と、怒涛の人生大転換をやっちまいました。

飛びましたよ。自分で決めて、飛べました。
転職したからって、決して人生バラ色になったとは言いません。苦労はあったし一時は体も壊しましたし。変化と事件ばかりの1年で、落ち着くまで確かに1年かかりました(おいおいネタにします)。

が、少なくとも転職したことを後悔なんてしてません。もう飛ぶ前には戻れません。

文字通り、人生変わった映画になりました。
ありがとう、ありがとう『マトリックス

ということで、2023年、またたわごとを書き続けてまいります。

『最後の決闘裁判』リドリー・スコットは配慮を知らない(ネタバレなし)

f:id:sinok_b:20211231225726j:plain色々物議をかもしている『最後の決闘裁判』。さすがの私もこの映 画でいつもの調子で文章書く気にはなれず、とは言っても書かないまま年越ししたくなく。
帰省の移動中にスマホアプリで書いてますんで(いつもはパソコン)、荒い文章とレイアウトなのはご容赦のほど。

巨匠リドリー・スコット監督が、アカデミー脚本賞受賞作「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」以来のタッグとなるマット・デイモンベン・アフレックによる脚本を映画化した歴史ミステリー。1386年、百年戦争さなかの中世フランスを舞台に、実際に執り行われたフランス史上最後の「決闘裁判」を基にした物語を描く。騎士カルージュの妻マルグリットが、夫の旧友ル・グリに乱暴されたと訴えるが、目撃者もおらず、ル・グリは無実を主張。真実の行方は、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘裁判」に委ねられる。勝者は正義と栄光を手に入れ、敗者は罪人として死罪になる。そして、もし夫が負ければ、マルグリットも偽証の罪で火あぶりの刑を受けることになる。人々はカルージュとル・グリ、どちらが裁かれるべきかをめぐり真っ二つに分かれる。「キリング・イヴ Killing Eve」でエミー主演女優賞を受賞したジョディ・カマーが、女性が声を上げることのできなかった時代に立ち上がり、裁判で闘うことを決意する女性マルグリットに扮したほか、カルージュをマット・デイモン、ル・グリをアダム・ドライバー、カルージュとル・グリの運命を揺さぶる主君ピエール伯をベン・アフレックがそれぞれ演じた。

2021年製作/153分/PG12/アメリ
原題:The Last Duel
配給:ディズニー
(映画.comより)

間違いなく、この映画はリドリー・スコットの作品の中でも傑作です。
リドリー・スコットって映画監督のなかでも、とりわけ「いかに全てを映像で語るか」に力を置きまくって色々バランス崩してる人なのですが、この映画は映像でここまで人間の感情を伝えることが できるのかと、見ているこちらが慄くほどの作品でした。
もちろん、役者の演技あってのものですけど、その演技をさらに増幅させる画を撮るのがリドリー・スコットなわけです。
リドリーは、この映画で人の感情を描き切りました。野郎どもの勝手で野蛮な姿を、男の論理に適応する道を選んだ女たちの姿を、神の名の元に臆面も疑問も持たず彼女を追い詰める男たちを、そして理不尽さを感じつつも沈黙して生き延びることを選んだ女たちを(ほとんどセリフの無い女性陣でも表情はしっかり拾っている)。
誰に肩入れすることもなく。

だから、問題なわけですよ。
この映画の出来が悪ければ、問題は違う形になったのではないかしらん。
リドリー・スコット個人の主義主張ははともかく、映画監督としては、徹底して第三者の視点を崩さない。
一人一人を同等に扱っている。むろん、最後の章の主体をマルグリッドにしていることで、彼女の視点こそが真実なのだと暗にわかるようにしている。
してはいるが、これを声高にうたっている訳ではない。
わかるやつにはわかるだろ、いや普通わかるだろ、という、リドリー・スコットらしい演出だと思う(だからわからなかった記者のアホな質問に怒ったりしている)。

でも、だから、そのことに不愉快な思いを感じる人がいることもよくわかる。
リドリークラスのヒットメーカーが、どうして今このご時世に、ちゃんと女性の真実をはっきりと主張した映画にしなかったのかと。
私個人の印象では、リドリー・スコットが明らかな女性蔑視や差別意識を持っているとは思えない。
彼は、女性が男性より劣っているなんて微塵も意識していないし、必ずしも男性がヒーローだと考えてもいない。
あの年代の白人男性にしては、マシな方だと思う。
その一方で、自分には差別意識がないと思っている人あるあるで、本人が社会的に包含された差別意識について意識がしていないこと、映画監督として表現することが先に立っているがために、いま現実に苦しんでいる女性がいる現状に真に寄り添って考えられない人でもあると思う。

そのうえ、そもそも画で容赦なく内面を暴くことを重視するあまり、そのほかのことへの配慮はあまり(ほとんどかも)しない監督なもんだか ら、余計に困る。
これ、彼が巨匠だからとか金になる映画を作るから平気だってこともありますが、どんな画にするか、が、リドリー・スコットの映画づくりの中心で、それ以外は二の次だからじゃないかなと思います。
改めて思えば、リドリー・スコットの映画ってあまり声高に主義主張したりしない。
物語をいかに画で伝えるか、それ自体が彼にとって一番重要なことで、物語そのものは本当は二の次のような気がする。これは本人が意識してる訳でなくて、映画監督としてそういう才能なのだとしか言いようがない。
だから容赦のない映画が平気で撮れるわけで、その容赦の無さが好きな理由でもあるんだけど。
なにせ、リドリー・スコットが大好きな上に、女性がひどい目にあう大抵の映画(何せ、レイピストの野郎どもが世にも残酷な目に遭わされる姿を見たくて『アイ・スピット・オン・ウイア・グレイヴ』*1まで見た女である) を平気でみてきた私でさえ、第三幕はかなりきつかった。

私は結構平気で過去のダメ彼氏エピソードを話しますし、モラハラDV気味の元カレにラブホで殺されかけた話(若い頃のことです)はすっかり昇華されてもはや武勇伝として話せますが、それでもこの男については思い出すの嫌な記憶もあります。

いいですか?
殺されかけたことを思い出すより、嫌な話なんですよ。
それがこの映画のせいでフラッシュバックしたんですよ。

同じような場面は、山ほど映画で観てきたのに、こんな思いをしたのは初めてです。
だからこの映画は間違いなく傑作なんだけど、人の記憶をゴリゴリ掘り返せるほどすごい映画なんだけど、私は二度と見ない。
リドリー・スコットの映画は全部ソフトを持っているけど、これだけは買わない。

私も、何でもかんでもわかるように撮ることが是だとは思いません。
でも、この映画の場合は、あのレイプシーンは撮って見せなきゃ、演出でにおわせるだけでは、ダメだったろうなと思います。
なぜなら、演出でにおわせるだけでは、男性原理にどっぷりつかった男性と、その男性原理に服従してしまった女性には、わからないんですよ。
彼ら彼女らにとっては、目で見える「事実」だの「現場」だのが無 ければ、この映画は本当に「真実は藪の中」なのです。

そんなの、事実かどうかわかるでしょ!?見せる必要ないでしょ! ?
はい、私もそう思います。でも見せないと「本当はどうだったんだろう?」というところに焦点があたってしまい、くそみたいな男性原理と決闘裁判というアホな制度に対し、正義を求めた女性の姿がブレてしまっただろうとも思います。

そして、この映画は見せなきゃわからない人たちに向かって、作られたような気がしています
脚本はマット・ デイモンとベン・アフレックです。この二人が「女性パートは女性脚本家にお願いしよう!」と(多分)単純に考え、女性パートはニコール・ホロフセナーが書いています。
それなのになんでレイプシ ーンがもう1回出てくるのか。
これ、完全に私のただの憶測ですが、レイプシ ーンでマルグリッドがどんな思いをしたのか、はっきり書かないとこいつら(マット&ベン)はわかんねーんだな、と、彼女は思ったんじゃないでしょうか

ニコールがレイプシーン除いて書く→マット&ベンが「これじゃわかんないから、ちゃんとシーン書いて」→ニコールが「こいつらこんなにアホなのかよ!」とあきれて、「じゃあ、アホでもわかるように書いてやるよ!」と徹底的に書いた……とかね。
あ、どうしよう、なんかこれってありかもと思えてきた。
違ったら誰か違うって言って。

 

公開タイミングのせいか、内容のせいか、単に「決闘裁判」という 一般的には耳慣れない言葉のせいか、リドリー・スコット映画史上 稀に見る赤字となるらしいこの映画。
パンフレットも作られていません。決闘裁判について予備知識の無い人が見たら間違いなく解説が欲しくなる、#MeToo絡みの解説や製作陣のコメントも知りたくなる映画なのに、パンフレットがない。
私は中世ヨーロッパ史が大好物なので、この元になった事件については微かに記憶があったんですが、やっぱり詳細が知りたいので原作買っちゃいました。

中世は暗黒だ、いや暗黒だというのは現代の感覚だ、という議論を昔読んだ記憶があります。私としては、やっぱり中世は暗黒時代だと思います。
決して暗愚な時代とは思いませんが、知識と知性を全力で残酷で愚かなことにつぎ込んでいた時代という意味では、 やはり暗黒時代だったんです、中世ヨーロッパは。

ただですね。
勝ちさえすれば名誉回復する(正確には夫の名誉だが)中世と、屈辱に耐えに耐えて裁判で勝訴してもSNSで被害者が叩かれ続けたりする現代と、この点だけを比較するなら果たして どちらがマシなのか。
それはいまいち私にもわかりません。

*1:前半女性が恐ろしくひどい目に遭い、その復讐で男どもがひどい目に遭うが、個人的にはもっとひどい目に遭わせていいと思っている。女性がひどい目に遭うところを観るのが嫌な方は、前半飛ばして後半だけ観るのもあり

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ジェームズ・ボンドよ永遠なれ(一番肝心なところのネタバレあり)

f:id:sinok_b:20211123024444p:plainなぜ、私たちは007シリーズを観るんでしょうか。

スパイ映画アクション映画、この世には山ほど007のような、そして007より出来のいい映画は山ほどあるのに。
なのに、007と聞いただけど、どうしてこんなに気持ちがざわめくのか。

緊急事態宣言が明けて、通勤時の狂った混雑が戻ってきた最近の東京です。
大分体調が戻ってきていた私でしたが、まだ死んだ魚の目のような会社員の群れとともに電車に乗れる状態ではなかったらしく、通勤時に冷や汗や動悸や吐き気が出るようになった今日この頃。
通勤は時差出勤でなんとか乗り切ってますが、それにしても急に増えた人の多さにエネルギーを取られ、お陰で観たい映画は山ほどあるのに、映画館に行く気力のでない日々。

でもね、これは、『007』は、観にいかねばならぬのですよ。

ジェームズ・ボンドの活躍を描く「007」シリーズ25作目。現役を退きジャマイカで穏やかな生活を送っていたボンドのもとに、CIA出身の旧友フィリックス・ライターが助けを求めにやってきたことから、平穏な日常は終わりを告げる。誘拐された科学者を救出するという任務に就いたボンドは、その過酷なミッションの中で、世界に脅威をもたらす最新技術を有した黒幕を追うことになるが……。ダニエル・クレイグが5度目のボンドを演じ、前作「007 スペクター」から引き続きレア・セドゥーベン・ウィショーナオミ・ハリスロリー・キニアレイフ・ファインズらが共演。新たに「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」のアナ・デ・アルマス、「キャプテン・マーベル」のラシャーナ・リンチらが出演し、「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリー役でアカデミー主演男優賞を受賞したラミ・マレックが悪役として登場する。監督は、「ビースト・オブ・ノー・ネーション」の日系アメリカ人キャリー・ジョージ・フクナガ。

2021年製作/164分/G/アメリ
原題:No Time to Die
配給:東宝東和
(映画.comより)

なぜ観に行かねばならぬのか。
「007」が好きとかファンだとか、そういうことじゃないんです。
あ、いや、好きよ、好きなんだけども。
でも私が一番好きなボンドはやっぱりショーン・コネリーで、コネリー以降のボンドは顔が好みじゃないとか老けてるとかタキシードがイマイチとか優男だとか、失礼千万なケチをつけるような心の狭いヤツなんです。
そのくせ、映画館での鑑賞は覚えている限りでは少なくとも『美しき獣たち』からは皆勤賞で、それ以前の作品も当然ながら全部観ているわけで。シリーズベスト(ちなみに『ロシアより愛を込めて』。自分でもベタすぎると思う…)は答えられても、ワーストはないし。
なのに決してマニアではないので何が語れるわけでもなく、そういうことが読みたい方はこんな駄文読むのはやめて他の方のブログを読んでいただいた方がいいですよと言ってしまう程度のヤツではあるんですが。

でもともかく、その程度の私でさえ、人混みがツライとかそういうことは、新作の007を映画館で観ない理由にはならんのです
だからといって、観なければいけない理由は何なのか、と聞かれると答えにつまる
とにかくそういう映画なのです、『007』は。

クレイグ版ボンドは、当初世界中がケチをつけた金髪碧眼ボンドなんて!という姿形は、私はまったく気にならず。
正直いえば、顔より体に眼がいっちゃってて。体だけなら、コネリー以来の大ヒットだ!と、思ってたんです。
ところが1作目の『カジノ・ロワイヤル』を観たら、ユーモアのないボンドに世間とは逆にちょっと引いちゃって。
世間が絶賛した部分に違和感持ってしまうなんて「私って実は、嫌なオールド・ファン気取りだったんか……」と、自分でもちょっとショックだったり。
でも2作目3作目と観る度にユーモア度やトンデモ度が増していき、とくにQがベン・ウィショーになった3作目以降はおちゃめな演出も増えて、すっかり居心地の良いクレイグ版ボンドが出来上がっていました。

クレイグ版ボンドは、ボンド自身には大してユーモアは無いんです。そのかわり、センスが無いからこその笑いってのもあって、そこはダニエル・クレイグの演技力と監督の力量が光るところ。
今回は、ユーモアセンスの無さを自虐ネタ?にしていて「自分でもわかっとるんかい!」と心の中でツッコんだし。MI6の受付で、不愉快そうに「ボンド……ジェームズ・ボンド」と名乗ったり。いままでで一番、笑ったんじゃなかしらん。
その代わり、キメるところはビシッと冷徹にキメるところがさすがです。

私がコネリー版ボンドが好きな理由は、色気もユーモアもあるのにやっぱり人殺し、って危険な雰囲気があるからです。
ブロスナンまでの他のボンドは、この「人殺し」感がちょっと物足りないんですよー。特にブロスナン版ボンド。
ピアース・ブロスナンって好きですけど、彼のボンドは華麗すぎて人殺してる気がしないんですよね。ブロスナンは人殺しより詐欺師が似合う。その意味では「スパイ」っぽくはあるけどさ。

でも00ナンバーは「殺しのライセンス」なんですよ。任務のためなら人殺ししてもOKなんですよ。
いや警官だって身の危険があれば犯人射殺したりするだろう、って言うそこのあなた!
警官だろうが犯人を射殺した場合は正当性を問われるんですよ、映画やドラマで見えないところで調書取られたり報告書書いたりしてるんです。

でも、くどいよーですが、00ナンバーは「殺しのライセンス」。正当性とか関係なしに、任務のための人殺しはOKなんです。
どっちかつーと、スパイというより「暗殺者」。
その点、クレイグ版ボンドは、人殺し感が半端ない。
そして色気とユーモアは、演出とダニエル・クレイグ自身が年を重ねてキャラを練り上げて身に着けていったから、今作では最高潮。
ま、色気の方は若い子がどう思うかは、映画内でカッコ可愛いパルマちゃんによって証明されちゃってますが、観てるこっちはダニエル・クレイグと一緒に歳とったんで、十分色っぽい。
確かにショーン・コネリーとは違う、違うけど、私にとってのジェームズ・ボンドに必要な要素は全部そろってる。

はい。お気づきの通りです。
ショーン・コネリーの次に、ダニエル・クレイグのボンドが好き
『ノー・タイム・トゥ・ダイ』で、遂に自信をもってそう言えます。

コネリー版ボンドになれなきゃ、クレイグ版ボンドになりたい。
私も、” I know…” って惚れた女に言って死んでみたい(落ち着け)
今生で女に生まれるまで、前世では紀元前から3000年くらい繰り返し男やってたらしい私ですが、一回くらいそんなカッコいいセリフ言って死ねたのかしらん。いや、できてないから、やってみたいと思うんだろうか。

……ちょっと話がズレましたが、とにかく、そんなクレイグ版ボンドは今作で終了です。
世間ではもう次のボンド役は誰だ!とざわざわしてます。
不思議です。
なぜ、ジェームズ・ボンドは役者を替えて作り続けることが当たり前なのか?

……いや、私にもさっぱりわからないんですけどね。
でも、ジェームズ・ボンドは、とにかく世界にいなければならないキャラクターのような気がします。映画館で、ふとそう思った自分がいました。

強いて言えば、007は常に作られたその時代を纏っているキャラクターだからかもしれません。同じキャラクターだからこそ、時代の変遷がよくわかる。
だからこそ、ボンド役者も演出も、時代に合わせて変わらなきゃならない。
今みれば、コネリー版ボンドはやっぱりあの時代の映画です。古いなーって思うことも多々あります。

それでも、やっぱりボンドはボンドなんだから、変わってほしくないとこもある。
色気があって、女にも男にもモテる男でいてほしい。
高級スーツとタキシードを着て、高級車を乗り回していてほしい。
ガジェットは必須、頭が良くて腕っ節が強くて、世界を救う人殺し。

そういう男なんて世界から消え去れ、という時代が来るまでは、ジェームズ・ボンドは永遠に作り続けられる気がします。