前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』ミック・ジャガーへのトラウマを解消した映画

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私には子供の頃からのトラウマが3つあります。
ひとつは、体調が悪くて吐いたゲロがマヨネーズの味そのままで、以来マヨネーズが食べられなくなったこと(現在も継続中)。
もうひとつは、御巣鷹山日航機が墜落した日、JALから家に電話がかかってきて「お客様が明日乗る飛行機が”無くなりました”」と言われて以来、JALが使えなくなったこと(島根出張で強制的に解消。羽田ー出雲便はJALしかないので)。

そして最後のひとつが、MTVで見たミック・ジャガーの顔が怖くて、ローリング・ストーンズを避け続けてきたことです。

私は、歳の離れた姉たちが洋楽好きだったことや、洋画ばかり見ていたせいで、小学生ですでに洋楽を聞いていました。
ま、とはいえ映画ほどには洋楽の好みは一貫しておらず、好きなアーティストを並べると、自分でもそれぞれ何が理由で気にいっているのか、よくわかりません。
BON JOVIだけは、5万字くらい平気で語れますが。

とはいえストーンズだけは音楽がどうとかではなくて、とにかくミックの顔が怖い
なんか頭からかじられそうじゃないですか、口でかいし。
だから音楽はおろか、写真や映像すら避け続け、40近くになってCSでたまたまこの映画を観るまで、本当にストーンズ抜きの洋楽生活でした。

ディパーテッド」「アビエイター」のマーティン・スコセッシによるモンスター・バンド“ザ・ローリング・ストーンズ”のライブ・ドキュメンタリー。2006年秋にニューヨークのビーコン・シアターで行われたライブの模様と、バンドのフロントマンのミック・ジャガーとスコセッシ監督のせめぎ合いが臨場感あふれる映像で収録されている。ライブには、ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトやクリスティーナ・アギレラも飛び入りゲストとして登場している。

2008年製作/122分/アメリ
原題:Shine A Light
配給:東北新社
(映画.comより)

この映画、存在は知っていたんですが、もちろん公開時は観る気はなく。ただ、やっぱり監督がマーティン・スコセッシ*1なんで、気にはなっていたんです。
だから最初はちょっとだけ、怖いもの見たさだったんですが、オープニングがあまりに面白くて。

あくまでビーコンシアターでのストーンズのライブを撮った映画なんですが、なんと、撮影前にストーンズに振り回される、スコセッシたちスタッフの様子から始まるんですね。
スコセッシは映画監督だから、ちゃんと段取りを決めてカメラを準備したい。だけどストーンズはアーティストなので、ああいや、映画監督もアーティストなんだけど、とにかく直前まで何を演奏するのか、どういう順番でやるのか、セットリストを出してこない。

別にさぼっている訳ではなくて、ミックは大まじめにセットリストを考えてるんですが、スコセッシは準備のために早く決めてほしい。催促しても出てこない。
最初はしっかりしたセットリストを欲しがっていたけど、とうとう「順番はいいから、何をやるのかだけ教えてくれ」みたいな感じになっていく。演奏する可能性のある曲を予想して、何がきてもいいように準備するはめに。

コミュニケーションが取れないとぼやくスタッフ、好き勝手なストーンズメンバー、リハーサル中のストーンズにあいさつ&記念撮影にくるクリントン元大統領とそのゲスト(30組って!)。
結局、セットリストがスコセッシの元にきたのは、直前。
セットリストが来た!その瞬間にパン!っとビーコンセンターの上空からライブ会場へと映像が切り替わる。

ちっくしょう、スコセッシめ!
やりやがるな、このジジイ!

ここで初めて、私はストーンズをちゃんと正面から見たわけです。

いやあ、顔が怖いとか言って、本当に申し訳なかったです。
彼らのパフォーマンスは圧巻でした。
と、同時に、ミック・ジャガーがフロントマンとして、いかにライブを作り上げる才能にあふれているか、そこがはっきりわかる映画でした。
そもそも、これはよくあるライブ映像ではなく、そんなもんなら別にスコセッシが撮る必要なんかないわけで。

もちろん、普通のライブ映像のように、ストーンズをカッコよく映すシーンも多々あります。でも目に留まるのは、彼らのちょっとした表情や仕草、アイコンタクト、観客に見せない後ろ姿、真剣なまなざし。
ライブでハイになっている一方で、プロフェッショナルとしての姿やお互いの関係性を、ものすごく丁寧に拾い上げている。
つまりこれは、ストーンズがライブという生ものを、一瞬一瞬で作り上げていく姿を追ったドキュメンタリー映画なんですね。

そういう形でなければ、私がストーンズに正対することはなかった気がします。
なにせ、今でも私は、別にストーンズの曲が好きな訳でも、ミック・ジャガーが好きな訳でもありません。ミックの世代なら、私はポール・マッカートニーの方が好き。
でも、ミックの才能には脱帽です。
ストーンズメンバー、サポートメンバー、ゲストアーティスト、観客までもコントロールし、最高のライブを作り上げるからこそ、60年代から最前線で生き残ってきたバンドなんだと本当に思う。

ライブ中、メンバーはミックの目くばせ、一瞬の指示に、操られるように動いてるんですよ。息が合ってるともいえるけど、魔法ですかね、あれ。言うこと聞いちゃう魔法?
もはや、すべてはミックの掌の上

唯一違うのはキース・リチャーズ(ギター)*2で、いやはやあのジーサンは、勝手に動く、周りまったく気にしない。ミック他全員がキースの動きに注意しているのが、めちゃめちゃ分って、思わず笑っちゃう(本当にミックは、よくキースを見ている)。
笑ってたら、途中に挿入された過去のインタビュー映像で、ロン・ウッド(ギター)がキースに合わせることついて「疲れる」と答えていて、さらに爆笑。
いやもう、もはや介護ですよ。
ミックを「神」と呼ぶ姉は、ストーンズはミックがいないと成り立たないと常々言ってますけど、それをまざまざと見せられました。
ううむ、ミック・ジャガー介護士でもあったのか。

今週は少々仕事で久々に振り回され、夕べから冷や汗や手の震えまで出て、すっかりくたびれました。傷病帰還兵のPTSDみたいなもんですね。ちょっと休職直前の自分を思い出しました。
こういう時は、あまりストーリーのあるものにはついていけないので、よく好きなアーティストのライブ映像を観るんですが、なぜか今日はストーンズ
思い入れがない分、完璧さを丸ごと楽しめるからかもしれません。
そしてすっかり、汗と震えは止まったのでした。

さて、週末も疲れがとれてなければ、ライブを観る日にしましょうかね。
BON JOVIは、もうちょっと元気になってからのカンフル剤(なにせ、人生応援歌だから、落ちてるときは少々タフ)として、やっぱり癒し系のテイク・ザット*3かしら。

映画は日陰なダークサイドを愛する私ですが、音楽の方は、なぜかお日様の下を胸張って歩ける、王道ロックやボーイズグループが好きな私です。
といいつつ、ストレスたまるとパンクやデスメタル一色ですが。
ようは、気分です、てきとーです、はい。

*1:名作『タクシードライバー』を撮ったスゴイ人。大作から小品まで名作多数で、熱狂的ファン多し。少々演出が暑苦し……いやその、クセが強いので、私は実はそれほど好きではない。

*2:パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで、ジャック・スパロウの親父を演じている。キースの顔は、別に怖くない。

*3:イギリスのボーイズグループのパイオニア。日本ではバック・ストリート・ボーイズの方が有名だけど、こっちが本家で歌も上手い。リーダーのゲイリー・バーロウは『キングスマン』の監督マシュー・ボーンの友達。