拝啓
ゲーム・オブ・スローンズの関係者各位
まずは皆さんに、心からのお詫びを言わせていただきます。
皆さんが心血を注いで作り上げた作品を、「そうは言ってもドラマでしょ」と、ナメてて本当に申し訳ありません。
この2週間弱でシーズン1から7まで、仕事と睡眠と最低限の家事以外のほとんどの時間を、この作品を観ることに使ってきました。もちろん、このブログの更新もしていません。
複雑な話なので、確認のために見返すことはあっても、観ること自体を止めることはできまなかったのです。
こんな面白いドラマは、ありません。
この壮大な世界と複雑で魅力的な人物たちを、ドラマで観たことなどありません。映画ですら、匹敵するものは少ないでしょう。
これほど素晴らしいものを作り上げた皆さんに、心からの敬意を表します。
確かに、日本での放送が始まった時、私はスターチャンネルに加入しておらず、観ることはできませんでした。
その後、Huluでの配信が始まりましたが、私はHuluには加入しておらず、観ることはありませんでした。TUTAYAでレンタルしようにも、とうの昔に退会しておりました。
が、しかし、Amazonで配信が始まった時、私には視聴可能な環境がありました。なのに、観ることはありませんでした。
この作品の世界観が苦手な訳ではありません。
そもそも私が学生時代に没頭していたのは、中世ヨーロッパ史です。『ゲーム・オブ・スローンズ』が模した世界のど真ん中です。
ましてや卒論は当時のキリスト教による異端審問がテーマです。第5~6シーズンの宗教がらみの展開は、ひさぶりにそのことを思い出しました。
ファンタジーも大好きです。『指輪物語』は中学生で読了し、映画化された時も、何度も観ています。
だからこそ、あの壮大な映画で描かれた世界に匹敵するものが、ドラマでできるわけがないと、思い込んでおりました。
何より私は「次週に続く」というタイプのドラマが、苦手なのです。私の観るドラマのほとんどが、1話完結の殺人事件物ばかり。
私の仕事は終わりのないタイプのもので、売り上げ目標達成とか、何かを作り上げた、という、やり遂げる喜びとは無縁です。
そのせいか、仕事が終わってみるドラマには「解決」を求めます。事件が解決すると、すっきりします。私は解決することが大好きなのです。
それに続き物はシーズン中に中だるみすることも多く、飽きてしまいます。
とりわけ、アメリカのドラマは人気があると延々シーズンを重ねていくこともあり、性格上、終わりの見えないストーリーが続くとハラハラを通り越して、イライラしてしまいます。
例外は『ウォーキング・デッド』で、放送時は毎週録画して観ていますが、かなりスローに展開していくので、実は結構内容をとばしながら観ています。誰が生きるか死ぬかが気になってやめられないだけで、某キャラクターが死亡したら、最終シーズンを待たずに観るのをやめるかもしれません。
失礼しました、他のドラマの話など。
とにかく、そんな私が『ゲーム・オブ・スローンズ』を観ることになったのは、復職中の私の気晴らしになるようにと、同僚がDVDを貸してくれたためです。
借りたからには観て感想のひとつも言わねばならぬと、1枚目のディスクを再生したその時から今日まで、冒頭に記しました通りのあり様です。
登場時には目にも入れてなかった人物が存在感を増していき、逆に重要人物と思っていた人々がバタバタと死んでいく様には目を見張りました。
もちろん、ショーン・ビーンだけは別です。出てきた瞬間からわかっていました、ショーン・ビーンですから*1。
そして、物語が進むにつれ、男性陣がどんどん小物になり、女性陣の強さ逞しさが増していく姿は、現代に生きる女性として痛快です。
この手の物語では、女性は添え物で虐待される、もしくはやたらと特別視されるものですが、この物語の中で、彼女たちはその境遇に抵抗し、相手を叩きのめします。私は、大悪女サーセイにすら、拍手喝さいしたい思いです。
覚えきれないほど大勢の登場人物がいるのに、その誰もが複雑な内面を持っていて、出会い、別れ、影響しあう。その絡み合ったドラマを、時に小気味よく時に壮大に描き、観る側を飽きさることも迷子にすることもなく展開していく。
最高のドラマと呼ばれていますが、その言葉に相応しい作品です。
こんな素晴らしいドラマを作って下さり、心から感謝いたします。
そしてもう一度、私が『ゲーム・オブ・スローンズ』を侮っていたことを、心から謝罪いたします。
敬具
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拝啓
わが良き同僚へ
君がこのドラマを貸してくれた時、正直、最後まで見られるか自信がなかったよ。続き物は苦手だからね。
でも、この4年間、会社で苦楽を共にし、休職中も復職中の現在も支えてくれて、まるで海兵隊の戦友のような君だ。
そんな君が「しのぶさんの好きそうな、血がいっぱい出るやつだから、気晴らしにして」と、わざわざ帰省時に自宅から、単身赴任しているこの東京まで持って来てくれたのだから、無下にすることなど出来るわけがない。
だから見たよ、感想はすでに伝えたね。「面白過ぎる」「展開がすさまじすぎて心臓に悪い」って。
君は「俺はやったぜ」と言わんばかりに、満足げだったね。
後になって「ちょっと性的なシーンが多くて、家に置いてて息子が観ると気まずいんだよ」という裏事情も白状されたけど、まあ、それは気にしてないよ。
でも、君の息子はもう高校生じゃなかったか?
このドラマには、男女、男男、女女、色々な関係が出てくるから視野は広がると思うんだ。そして何より女性を侮ったり虐げることがどれだけ酷いことか、そして本気で怒らせたらどんな目に遭うのか、疑似体験するのに良いドラマなんじゃないかと思うんだけど。
もっとも、私には子供がいないし、自分自身は小学生で山田風太郎*2を読んでいたような子供だったから、そのあたりの子育てや親の気持ちについてはよくわからない。
とにかく、君のおかげで楽しみが出来たから、復職期間をなんとか乗り切っているよ。
本当にありがとう。心から感謝しているよ。
でも、ひとつだけ、言わせてほしい。
どうして、最終章になるシーズン8だけ、持って来なかった?
いや、言い訳は聞いた。「重かったから」と聞いた。
私もそれは認める。オフィスから家まで持って帰る時、ほとんど電車とはいえ、重かった。
でも、想像しなかったのか?
シーズン7でおあずけされたら、私がどんな気持ちになるかって。
せめてシーズン6ならまだいい。何となく、登場人物が収まるところにおさまった形だったから。
だが、シーズン7はいけない。さあこれから大変だ!というその時に終わりなんだよ。
いや、リアルタイムで観ていた人たちは、あの後から長い期間、続きを待っていたのだろうから、ちょっとくらい待てと言うだろう。
だけど、私は君のおかげでシーズン1から7まで、一気に観たのだ。ここで止められるのはあまりに残酷ではないか。
君が次に帰省するのは、一週間は先だ。その時、シーズン8を持ってくると、君は言ったね。
Amazonではシーズン8も配信しているよ。ただし、プライムではなかったから、観るには金を払わなきゃいけない。
金を惜しむ気はない。だが、君は持ってくると約束してくれた。我が戦友である君は、約束を違えたことなどない。
だから私は、君を待つ。
ネッド・スタークのごとく、愚直に君の約束に誠実でいる。
その代わり、万万が一にでも忘れてきたなら、私のこの手で君の首を刎ねてやる。
敬具
TVシリーズの常識を覆し続けるHBO製作の海外TVドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」。長年にわたり世界じゅうのファンを魅了してきた本作は、HBOが1話につき製作費約1,000万ドルともいわれる巨額を投じ、ジョージ・R・R・マーティンのベストセラー⼩説「氷と炎の歌」の壮大な世界観を映像化した大人気シリーズ。
(ワーナー公式サイトより)