前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『エスケープ・フロム・L.A.』今日、一人の男が死んだと知った(ネタバレあり)

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本当は別の映画について書いていたのだけど、今、急遽これを書いている。
今日、訃報が届いたから。
そしてこの映画が観たくなったから。

 

我が最愛のジョン・カーペンター監督が生み出した、カート・ラッセル扮するスネークというキャラクターがいる。
ニューヨーク1997』と『エスケープ・フロム・L.A.』の主人公で、どちらも最高に面白い映画だけど、ストーリーはだいたい同じ。

舞台は近未来のアメリカ。スネークは元特殊部隊の隊員で今は犯罪者。腕を見込まれて政府からあるミッションを下される。自分の命を担保にとられ、渋々彼は言うことをきき、ミッションを見事やりとげる。
だが最後、彼は自分を雇ったクソッタレ政府にしっぺ返しをするのだ。

どちらも大筋は同じなのだが、私は『エスケープ・フロム・L.A.』の方が好きだ。それはラストの衝撃度が大きいからだ。

『L.A.』でスネークのミッションは、政府から盗み出された秘密兵器を取り戻すこと。この兵器は軍事衛星を使い、指定した場所のすべてのエネルギーを、電池すらも無効化する機械だった。特定のコードを指定すれば、地球全体を暗黒時代に戻してしまうこともできる。
彼は苦心惨憺の末に兵器を取り戻すが、政府に騙されたことを知る。
スネークは、裏切ったアメリカに怒り、そのアメリカを狙う他国にも与する気はなく、なんと兵器を作動させてしまうのだ。
全世界に向けて。

映画のラストは、エネルギーが消えた世界で、スネークがマッチに火をつけてタバコ吸い、スクリーンの向こうにいる我々をじっと見据える。
そして火を吹き消して真っ暗の中で我々に言う。

"Wellcome to the human race." (人間に戻れたぜ)

これは、屈指の名シーンだ。

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昔の転勤先でお世話になった会社の先輩が急死した。朝、会社に出社してこず、社宅で亡くなっているのが見つかった。
単身赴任で、週末を挟んでいたため、2日も放置されていた。
まだ50代前半の、突然死だった。

若い頃はかなりワルだったらしく、「家に帰った時、玄関前に女性が子供を連れて待っている、ってのが一番怖い」といっていた。そのくせ、セクハラはしない人だった。
夜中でも休みでも部下を働かせたが、本人はその倍働く人だった。
見た目はチャラい兄ちゃんで、『アウトレイジ』に出てくるようなファッションセンスで酒飲みで、今のこのご時世にヘビースモーカーだった。

客観的に見て、時代遅れでほめられた男ではなかったが、責任者になっても威張り散らすことはなく、よそ者で年下で女の私が彼をイジっても、「ひどいなあ」と言ってニコニコ笑う人だった。
冗談で「いつか路上で刺されて死にますよー」と言ったことがあったけど、まさか社宅の床の上で死ぬとは思わなかった。

確かに、不摂生な人だった。
でも、だからって全ては本人のせいなのだろうか、と、仕事に追い詰められて休職している私は思ってしまう。
仕事が第一、会社が第一、仕事だから仕方がない、やるしかない。
そういう言葉が価値観が、無意識に私たちを追い詰める。社内で知った顔が突然死したのは、これが初めてではない。
喪失感とともに、もう嫌だという言葉が頭を占める。何もかもが腹ただしい。

訃報を聞いて、なぜ私がこの映画を観たくなり、泣きすぎて痛い目で100分もこれを観て、さらに目を酷使しながらこの文章を書いているのか、自分でもよくわからないし、だからうまく言葉にすることができていない。

この映画を観たことがない人には、今回はいつもの記事以上に訳がわからないだろう。
観たことがある人には、何かぼんやりとでも伝わるだろうか。

クソみたい成り果てたろくでもない世界を、銃も爆弾も使わず、パスワードひとつで静かに終わらせ、マッチの火から仕切り直せと言いたげなスネークに、今、私は慰められている。

 

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