前世戦士の映画日誌

前世が戦士らしい女が映画を観て色々吐き出します 生態日誌です

『パピヨン』スターについて経理の課長に言いたかったこと

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新入社員の頃、飲み会で経理の課長から声をかけられたことがありまして。課長は映画が好きだそうで、私の趣味が映画鑑賞と知って、話してみたくなったらしい。

「しのぶさん、映画が好きなんだって?」
「はい」
「じゃあ、映画スターにとって、何が一番大事だと思う?」
「顔です!」
「ああ、そう。ふふん」(ホントにふふんと言ったんだ!

そう笑って、課長はさっさと席を立っていきました。
その後二度と、仕事以外で会話したことはありません。

あの時、課長が言った「ふふん」は、「ようするに、美男美女ってことだろ」みたいな意味合いだったと思っている(たぶん間違ってない)。
新入社員だったからとはいえ、食い下がって説明できなかったことが、いまだにものすごく悔しいのですよ、私。

その記憶が、久々にオリジナル版『パピヨン』を観ていて、ふつふつと沸き上がって来たので、ここでそのうっ憤晴らしをしたいと思います。

無実の罪で13年間の刑務所生活を強いられたアンリ・シャリエールの実話に基づく小説を、スティーブ・マックィーンダスティン・ホフマンの2大スターで映画化。監督は「猿の惑星」「パットン大戦車軍団」のフランクリン・J・シャフナー。胸に蝶の刺青があることからパピヨンと呼ばれる男。身に覚えのない殺人罪終身刑を言い渡された彼は、自由を求めて脱獄を繰り返した末、親友のドガと共に脱獄不可能とされる孤島に送られる。

1973年製作/151分/G/フランス・アメリカ合作
原題:Papillon

(映画.comより)

主役のパピヨンをマックイーン、親友ドガをホフマンが演じました。
実は『パピヨン』はもう一作あって、チャーリー・ハナム&ラミ・マレック主演のリメイク版があります。
こちらは公開時に映画館で観ました。基本、筋は一緒で、リメイクの方がテンポが良くて観やすい。

でも、印象に残るのは、オリジナルの方なんですよ。
映画全体じゃなくて、場面。正確にいえば、スティーブ・マックイーンの顔なんですね。
美醜とか好みの話じゃありません。正直、顔だけなら、私好みの俳優、出てないし。

ただ、チャーリー・ハナムは、体が好きで。
そもそもリメイク版を映画館で観たのは、ハナムの体目当てと言っても過言ではない。
エロ目線だけじゃないですよ(ゼロではない)。ハナムって、体の動きで表現するタイプなんだと思うんですよ。

裸で殴り合うアクションでも(ここだけで元は取った)、動きの少ない静かな演技でも、理不尽への怒り、生への執着、脱出への執念、そういったものを、腕や首や背中の筋肉ひとつひとつが、静かに訴えてくるようで。

パピヨン』で一番衝撃的なのは、過酷な環境下の独房シーンです。食べ物も明かりもほとんどなく、パピヨンは精神的にも肉体的にも追い込まれていく。
狂気と正気、燃え尽きそうになりながらも消えずにいる命。そういうものを、ハナムは全身で演じてました。

でもね、マックイーンは、それらを全部、顔だけでやってのけた。

私は、マックイーンのことは、すごく演技が上手いとは思っていなくて、演技だけならこの映画でもホフマンの方が上だと思ってます。ラストシーンなんか、個人的にホフマンの出演作では屈指の名演技だと思う(毎回、ここで泣く)。
独房でのマックイーンによる狂気の表現は、一歩引いて見れば、大袈裟でやり過ぎとも見える。元々、カッコつけでオーバーアクトな役者だし。
でも、それでも、マックイーンの顔の方がいい。

マックイーンは、何を演じても、顔に「スティーブ・マックイーン」が残ってます。この映画でも、彼は自分の顔の下にパピヨンを重ねただけで。
マックイーンは、「マックイーンじゃない役」は演じなかったし、できなかった。
その代わり、本人と役、二人分の男が重なった顔は、演技というより、ある種の真実なんです。
これに勝るものって、ないですよ。

ハナムは、体をみてると「チャーリー・ハナム」がちゃんといるのに、顔にはいなくて、「パピヨン」だけになってしまう。
体目当ての私はいいけど、顔の自己主張が足らんのよ*1

そこが、スターとして、大中小の差がついてしまうところ。
何を演じてもスター本人の顔が消えない。それでいて、役と同化している。
それが私の考える大スター*2

そういうことを言いたかったんだよ、あのクソッタレ課長に!

悔しいので、今ここで改めて、経理課長だったヤツに言う。

スターにとって大事なのは、顔だからな、鈴木!

 

 

*1:ハナムが好きな私でさえ、急に顔だけみると、チャニング・テイタムと一瞬迷う。その場合、髪の色と体で区別する。

*2:現在のこの手の代表はトム・クルーズ。スパイをやろうが、ダメ親父をやろうが、モテ男製造自己啓発セミナー伝道師をやろうが、全てがトム。さすが思う一方、自分を晒して演じる彼のようなスターは、生きていくのが辛そうだ。

アメブロ更新:クリスマスの凄さの話

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アメブロを更新しました。

元々は、この映画ブログの更新お知らせを書いてただけだったんですが、気づけばクリスマスについての雑な考察を始めてしまい、完全に別物になってしまいました……。

気が向きましたら読んでみてください。

ameblo.jp

『クリスマス・キャロル(1970年版)』毎年同じ日に映画を観るということ(ネタバレあり)

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基本、他殺体のある映画ばかり観ている私ですが、ここ10年ほどは、毎年クリスマス・イヴにこの『クリスマス・キャロル(1970年版)』を観る習慣がありまして。

なぜこれかと言うと、もともとディケンズの原作が好きってのもありますが、とにかく歌が良いんですよ。それに、ものすごく脳に残りやすい曲が多くって。

クリスマス・イヴの晩、金貸しで因業ジジイのスクルージの前に、7年前に死んだ共同経営者のマーレイが現れて、いまから過去・現在・未来の幽霊がやってくるという。幽霊たちに様々なクリスマスを見せられて……という話。

ロンドンの下町に繰り広げられる人々の喜びと悲しみをヒューマンなタッチで綴ったミュージカル。製作はロバート・H・ソロ、監督は「ミス・ブロディの青春」のロナルド・ニーム、文豪チャールズ・ディケンズの同名小節を「ドリトル先生不思議な旅」のレスリー・ブリッカスが脚色、同時に音楽を兼ねる。(途中略)出演は「いつも2人で」のアルバート・フィニー、「危険な旅路」のアレック・ギネス、「シャイヨの伯爵夫人」のエディス・エバンス、「史上最大の作戦」のケネス・モア。その他、パディ・ストーン、デイヴィッド・コリングス、リッキー・ボーモン、スザンヌ・ニーブなど。(映画.comより)

あ、「この女、10年もクリスマス・イヴに1人かよ」と思った方、いますね?
この10年ずーっと相手がいなかった訳じゃないんですよ。一度、当時の彼氏に強制的に観せたことがあったんですが、いかんせん古いミュージカルなもんだから、苦手な人は内容以前に無理でして。
それに、そもそも私、スクルージ同様、イヴだろうがなんだろうが、いつも仕事してたんでね……。

観る状況はともかく、毎年同じ時期に同じ映画を観てると、年によって気になるポイントが違うことがあり、年末総決算にはいい習慣のように思います。
基本は「心が洗われるわー」とほっこりするんですが。

「借金棒引きにしてくれたからって、いきなり態度が変わるとか、所詮は金かよ」という年とか。
「棺の上で歌って踊るって演出、ちょっと人としてどうなのよ」という年もあり。
逆に同じシーンで「死んでここまで喜ばれる人生って、やろうと思ってできるもんじゃねーな」と感心したり。
一体、何があったんだよ、当時の私。

ただ、老人スクルージを演じたアルバート・フィニー(写真右)が当時34歳で、幽霊のマーレイを演じたのが当時56歳で後にオビ=ワン*1になるアレック・ギネス(写真左)だってことに、わかってても慄いてしまうのは、毎年同じです

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今年は、よもや自分がするとは思いもしなかった休職をする羽目になり、先日の記事に書いた通り、数日前に会社の親しい方を亡くしたりもあって、実はこの映画のことなんてすっかり忘れてたんですよ。
クリスマスってことはわかってたんですが、気持ちの方がどうにも。

特に、訃報はかなりダメージが大きくて、22日に記事を上げてから、ちょっと記憶が7割くらい飛んでます。
今朝メールを見たら、スマホゲームの課金のお知らせがすんごい数届いていて、1件数百円ずつみたいだけど、合計金額は不明。ゲームした記憶はあるんですが、時間の感覚と課金した記憶が曖昧で。
来月の請求が、マジでスクルージさん棒引きにして、って気分。

そんなこんなでちょっと気力が戻ってきたのが、25日。この日はあれこれあって、そうだやっぱり観よう!と思った次第です。

今年は、今までで一番、アルバート・フィニーの演技が刺さりました。
スクルージが改心して目覚めた、クリスマスの朝のシーンで。目覚めるまで、彼は将来死んだ自分が落ちるであろう地獄にいたのです。

"But, I'm alive. I'm alive !"(でも、生きてる。わしは生きてるんだ!)

そして彼は力強く宣言する。

"I'll begin again"(また、始めるんだ!)

もうね、内容は22日に観た『エスケープ・フロム・L.A.』と何一つ共通点はないんですが、私が受け取ったメッセージの意味合いは一緒でね。
とにかく、「やり直せやり直せ」と言われている気がします。

実は、訃報が届く直前に書いていて途中になってる記事ですが、『パピヨン』なんですよ。無実の囚人が脱獄する話。
脱獄自体のことには、全く触れてないんですが、やっぱり無意識に「やり直す映画」を選択している気がします。

ただ、今年思ったのは「やり直せ」だけじゃない。

 

最後にもう一度、亡くなった方の話を、自分のためだけに書く。
彼とは3年間、同じ支社で仕事をした。

私が異動で地元の支社へ戻ることになり、テレビ会議であいさつをした時のこと。
当時、別のオフィスにいた彼はわざわざカメラを切り替えて、彼の部下たちと「しのぶさん、今までありがとう!」メッセージボードを掲げるという、サプライズをしてくれた。めちゃくちゃ嬉しかった。

その後は、会う機会があってもお互い軽口ばかりで、ちゃんと面と向かって「ありがとう」と伝えたことがなかった。

休職中なので細かいやり取りは会社の皆に手間をかけると思ったし、そもそもショックでぼろぼろだったから、香典も弔電も出していない。当然、葬儀にも出ていない。
だからお別れも言ってない。

でも、彼なら「ええんよ、しのぶさん。そんなことせんでも、わかっとるけぇ」と言うって、それもわかってる。わかってるんだけどさ。

だから、この映画の最後の曲を、貴方へ手向けとさせてください。

貴方のしてくれたことの全てに。
ありがとうございました

 

 

*1:スター・ウォーズ』の超有名キャラ。アレック・ギネスはオビ=ワンと同一視されることを毛嫌いして、出演したのを後悔しているとまで言った。オビ=ワンはダメで、このマーレイはいいのかと思うと、個人的には複雑なんだが……。

『エスケープ・フロム・L.A.』今日、一人の男が死んだと知った(ネタバレあり)

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本当は別の映画について書いていたのだけど、今、急遽これを書いている。
今日、訃報が届いたから。
そしてこの映画が観たくなったから。

 

我が最愛のジョン・カーペンター監督が生み出した、カート・ラッセル扮するスネークというキャラクターがいる。
ニューヨーク1997』と『エスケープ・フロム・L.A.』の主人公で、どちらも最高に面白い映画だけど、ストーリーはだいたい同じ。

舞台は近未来のアメリカ。スネークは元特殊部隊の隊員で今は犯罪者。腕を見込まれて政府からあるミッションを下される。自分の命を担保にとられ、渋々彼は言うことをきき、ミッションを見事やりとげる。
だが最後、彼は自分を雇ったクソッタレ政府にしっぺ返しをするのだ。

どちらも大筋は同じなのだが、私は『エスケープ・フロム・L.A.』の方が好きだ。それはラストの衝撃度が大きいからだ。

『L.A.』でスネークのミッションは、政府から盗み出された秘密兵器を取り戻すこと。この兵器は軍事衛星を使い、指定した場所のすべてのエネルギーを、電池すらも無効化する機械だった。特定のコードを指定すれば、地球全体を暗黒時代に戻してしまうこともできる。
彼は苦心惨憺の末に兵器を取り戻すが、政府に騙されたことを知る。
スネークは、裏切ったアメリカに怒り、そのアメリカを狙う他国にも与する気はなく、なんと兵器を作動させてしまうのだ。
全世界に向けて。

映画のラストは、エネルギーが消えた世界で、スネークがマッチに火をつけてタバコ吸い、スクリーンの向こうにいる我々をじっと見据える。
そして火を吹き消して真っ暗の中で我々に言う。

"Wellcome to the human race." (人間に戻れたぜ)

これは、屈指の名シーンだ。

www.youtube.com

 

昔の転勤先でお世話になった会社の先輩が急死した。朝、会社に出社してこず、社宅で亡くなっているのが見つかった。
単身赴任で、週末を挟んでいたため、2日も放置されていた。
まだ50代前半の、突然死だった。

若い頃はかなりワルだったらしく、「家に帰った時、玄関前に女性が子供を連れて待っている、ってのが一番怖い」といっていた。そのくせ、セクハラはしない人だった。
夜中でも休みでも部下を働かせたが、本人はその倍働く人だった。
見た目はチャラい兄ちゃんで、『アウトレイジ』に出てくるようなファッションセンスで酒飲みで、今のこのご時世にヘビースモーカーだった。

客観的に見て、時代遅れでほめられた男ではなかったが、責任者になっても威張り散らすことはなく、よそ者で年下で女の私が彼をイジっても、「ひどいなあ」と言ってニコニコ笑う人だった。
冗談で「いつか路上で刺されて死にますよー」と言ったことがあったけど、まさか社宅の床の上で死ぬとは思わなかった。

確かに、不摂生な人だった。
でも、だからって全ては本人のせいなのだろうか、と、仕事に追い詰められて休職している私は思ってしまう。
仕事が第一、会社が第一、仕事だから仕方がない、やるしかない。
そういう言葉が価値観が、無意識に私たちを追い詰める。社内で知った顔が突然死したのは、これが初めてではない。
喪失感とともに、もう嫌だという言葉が頭を占める。何もかもが腹ただしい。

訃報を聞いて、なぜ私がこの映画を観たくなり、泣きすぎて痛い目で100分もこれを観て、さらに目を酷使しながらこの文章を書いているのか、自分でもよくわからないし、だからうまく言葉にすることができていない。

この映画を観たことがない人には、今回はいつもの記事以上に訳がわからないだろう。
観たことがある人には、何かぼんやりとでも伝わるだろうか。

クソみたい成り果てたろくでもない世界を、銃も爆弾も使わず、パスワードひとつで静かに終わらせ、マッチの火から仕切り直せと言いたげなスネークに、今、私は慰められている。

 

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アメブロで映画じゃない前世戦士のブログを始めました

アメブロの方で、同じ前世戦士として、映画じゃないことをネタにしたブログをはじめました。
このブログをやり始めたことで書くのが楽しくなってきたらしく、映画以外にも吐き出したいことが出てきたんですね。

別にこちらのブログに書いたって良かったんですが、せっかくの映画縛りを崩したくなかったので。
それに、さきほどアメブロに1件、記事を上げたんですが、やっぱり微妙にノリが違うような。
まあでも、寄付について書いてたのに、途中から「兵站」の話になるので、所詮、本質は一緒です。

二つもブログを始めて、復職後はどーすんだよ、って気もしますが、ブログも書けないような、何より映画を楽しく観れない、あんな働き方には戻りたくないし。
また『ワイルドバンチ』を延々観続けるような精神状態は、勘弁。

あくまでこちらの映画日誌がメインなので、アメブロの方はゆっくりやっていきます。
それに、アメブロのエディタが微妙に使いにくくて、作業に時間がかかるし……。
私の場合、思いついた文章は、スマホのアプリで書き散らした後、PCで推敲と編集をしてUPするんですが、アメブロのPC版のエディタが、なんだかなあ!

そんな感じですが、更新しましたら、こちらのブログにも都度ちらっと紹介するので、ヒマがあったら見てみてください。

 

ameblo.jp

『ジェームズ・キャメロンのSF映画術』神のような狂人たちの集い


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前回、最近ジェームズ・キャメロンのことを考えている、と書いてましたが、そのきっかけがこれ。『ジェームズ・キャメロンSF映画術』。

キャメロンとゲストとの対談を中心に、映画監督や俳優、スタッフやライター、学者等々、SFに関わる人々が語る番組で、全6回。これをMovie Plusで放送しています。今は第3回まで観たところ。

どうも、最近出版されてる『SF映画ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション創作講座』って本と内容がリンクしているようです。
各回にテーマを設け、ざっくり映画史を追うようなところもあり、名前だけ知ってた古ーーーーーい映画も出てくるから勉強になる。

何より、引用通りキャメロンの対談相手がジョージ・ルーカススティーヴン・スピルバーグリドリー・スコットギレルモ・デル・トロ等々*1SF映画史を作ってきた当人たちで豪華絢爛。
その絵面だけでご利益がありそう

大学生の頃、一時期SF小説にどっぷりハマりまして。
他校で『ブレードランナー*2を題材にした公開講座をやっていて、それを受講したのがきっかけでした。原作者のフィリップ・K・ディックから始まって、ハヤカワSF文庫はひととおりおさえたと思います。
私の専門は中世ヨーロッパ史(前世の自分史ともいう)だったんでSFとは対極なんですが、若い頃に過去と未来の両方を学んだことは、自分の肥やしになっていると思う。

ただ、私には致命的な弱点がありまして。
言葉で描写された情報をビジュアル化する能力が、壊滅的にないんです。どんなに素晴らしく写実された文章でも、頭の中に浮かぶ映像は、辛うじて走り書きのスケッチもどき程度……。
普通の小説に出てくる現代日本の描写でそれですからね、SF小説なんて脳内画用紙は常に白紙。いいとこ、「宇宙人」って書いて、丸で囲って終わりですよ

映画監督の頭の中は、いったいどうなっているんだろう。
番組で取り上げられてた映画の中では、『メッセージ』*3、あれはすごい。映画観た後で原作読みましたが、あの文章からよくもまあ、あんな宇宙人の姿と文字を映像化したなと。

改めて思ったのは、SF映画というものは、とにかく全てにおいて細部をどれだけ作り込めるかにつきるということ。
SF映画に限ったことではないんですが、特にSFの場合は、「ありのまま」が嘘くさい。
目で見えるものも見えないものも、ありとあらゆるものを、ゼロベースから考えて、徹底的に創造する。

よく、神は細部に宿るって言いますけど、あれは逆で、凡人にはあり得ないほど細部にこだわれる奴が神なんですよ。
少なくとも、「造物主」って意味での神ですね。

この番組に取り上げられる映画監督は、想像力が半端じゃない上、それを現実にするためなら何でもする連中ですよ(褒め言葉です)。
映画監督なんて大なり小なり狂ってる人種だと思ってますが(褒め言葉です!)、SFやファンタジー系を好むタイプは、特に顕著な気がします。
みんな少年ようにキラキラした目をしてますけど、映画の中のフランケンシュタイン博士*4も同じ目をしてるよね……。

だから、もし彼らと話す機会があるのなら、ぜひともひとつ伺いたい。
あなた方の作る映画に出てくるマッドサイエンティストと、あなた方自身とは、いったいどこが違うのかと。

ここまで書いてて思い出しましたが、冒頭の「キャメロンについて考えていたこと」は、SFとは全く関係ないことでした
だから、その話はまた別の機会にでも。

ちなみに私、昔、上司から「神は細部に宿るんだぞ!」って叱られたことがあります、会議資料作ってる時に
会議に神は要らんと思う。

 

(追記:2020/12/20)

本の方も買ってしまいました。『SF映画ジェームズ・キャメロンと6人の巨匠が語るサイエンス・フィクション講座』。やはり番組とセットです。
フルカラーで内容も濃い。読みながら観るとさらに楽しい。電子書籍じゃなくて、ぜひ紙で買ってください。

 

*1:順に『スター・ウォーズ』、『エイリアン』、『未知との遭遇』『E.T』他多数、『パシフィック・リム』の生みの親。そしてキャメロンは『ターミネーター』『アバター』の生みの親……って書くと、改めてなんかすごい。

*2:原作はフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』。監督はリドリー・スコット。脱走レプリカント(人造人間)を捕まえるブレードランナーの話。とりあえず観とけSF映画の一つ。

*3:原作はテッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語。地球にやってきた宇宙人と関わった言語学者の話。原作は正直、難解なところが多く、映画を頼りに必死で読んだ。

*4:メアリー・シェリーの小説『フランケンシュタイン』の主人公。映画化作品多し。フランケンシュタインは怪物の名前じゃなくて怪物を生み出した博士の名前なんだが、勘違いしている人は多い。「怪○くん」のせいだろうか……。

『タイタニック』ディカプリオのことは見なかったことにした(ネタバレあり)

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実は、嫌いだったんですよ、『タイタニック
上流階級の美女と貧乏画家の美男が、豪華客船で恋に落ちて、その客船が沈没して男は女を守って死んだって話に、ときめくかって言われても、「いや、ときめかない」としか答えようがない。
パニック映画としては面白いけど、恋愛映画って……。

そもそも、私の好きな恋愛映画って『羊たちの沈黙』なんですよ*1
障害のある恋愛話は嫌いじゃないんですが、人食い殺人鬼とFBIぐらいの差がないと、ちょっと物足りないし。
当時は「嫌い」って言うと、女性陣から総攻撃でした。特に会社の先輩方から。
「あんたってそういうところあるよね」
なんて言われたりして。
そういうところって、どういうところなのか、私にはいまだにわからないんですが

北大西洋上で氷山に衝突し、20世紀最大の海難事故となった豪華客船タイタニック号の悲劇を、ラヴ・ストーリーの要素を交じえて描いたスペクタクル超大作。ほぼ原寸大に再現されたタイタニック号をはじめ、総製作費2億ドルという巨費を投じたゴージャスな雰囲気が見どころ。監督・脚本は「ターミネーター2」「トゥルーライズ」のジェームズ・キャメロン。SFXはキャメロン自身が設立した特撮工房のデジタル・ドメインがあたった。製作はキャメロンと「トゥルーライズ」のジョン・ランドー。(途中略)主演は「ロミオ&ジュリエット」のレオナルド・ディカプリオと「日蔭のふたり」のケイト・ウィンスレット。(映画.comより)

なので、映画館で観たっきり、ただの一度もマトモに見返したことがなかったんです。ところがこのところ、何故かジェームズ・キャメロンのことをつらつら考えていたところに、CATVで放送されていたものだから、ホントに20年ぶりに観ました。最初から最後まで。
で、気づいたの。
この映画、レオナルド・ディカプリオを忘れりゃ、面白い

美形すぎだわ、あの頃のディカプリオ。
サラサラの金髪、青い瞳、白い肌、なによりあの線の細さ。おとぎ話の王子様みたいで、乙女心に直撃ですよ。
しかもディカプリオ演じるジャックって、芸術家肌でピュアで少年っぽいところもあるから、母性愛も刺激されるわけですよ。もうこれ、女性陣はメロメロですわな。
なにせうちの母親(当時65歳くらい)も、感想が「男の子がキレイだった」だったもんなあ。

でもディカプリオのことを、ちょっと脇においといて見てくださいよ。
パニック物でヒーローが画家って、なんだそりゃ。
普通は軍人か元軍人か、せめて水夫にしてくれよ!(アクション映画の観すぎ)

しかも、全体通して体張ってるのは、意外にケイト・ウィンスレット演じるローズの方が多いんですよね。しかもあの動きづらいドレス。並みの身体能力じゃないぞ、あれ。
それに、度胸の方も一級品です。救命ボートから船に飛び移るとことか。
ローズ、よくよくみると、めちゃめちゃカッコいい。

そう。ローズには、元々この大事故を自力で生き延びるだけの力があったんだなと。
ローズは最初こそ、運命に流されるままの現状を嘆くばかりなんですが、ジャックとの出会いを通して、自分が本来持っていた強さに気づいていく。

ローズって、実は恋愛って意味で、ジャックを愛したわけじゃないと思うんですよ。
彼女にとって、ジャックは彼女を目覚めさせた、天使とか精霊とか妖精みたいなもんなんです。
だから、乗客名簿には彼の名前がない。実在したのかどうかも、誰にもわからない。
でもローズの心の中にはずっとジャックがいて、生きる力となっている。

ラストで、ローズが死んでしまったジャックを海に沈めてしまうシーンは、ローズひどい!って人も結構いました。
当時付き合ってた彼も怒ってましたね。命懸けで助けてくれた男に、あの仕打ちかよって。
でも、これを恋愛物語と捉えず、一人の女性が、他人に決められた人生から解放されて、自立していく話だと思ってみてくださいよ。
人生これからって時に、死んだ男にかまけて救助を逃すわけがないだろう

そう気づいたら、私、この映画わりと好きになりましたし、ちょっとね、今ちょっと、仕事のこととか人生後半戦どうするかとか、悩み多い時期なだけに、なかなか勇気づけられもしました。
ですから、私にとっての『タイタニック』は恋愛映画ではなく、女性の自立物語なんですね。

だからやっぱり、一番好きな恋愛映画は『羊たちの沈黙』です

 

 

*1:連続殺人鬼を、FBI候補生のクラリスが、獄中の人食い殺人鬼ハンニバル博士の協力を得て捕まえる話。ハンニバル博士のクラリスに対する歪みまくった感情に、高校生の私はドキドキしたものです。